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あれから更に数週間が経過した。
作曲も順調に進み、終わりが見えてきた頃の事。
音楽室で零にこんな事を聞かれた。
「嬢ちゃん。…さては、我輩に隠れて何かしておるな？」
思わず持っていた鞄を落とした。
確かに彼に隠している事は事実であるし、別に知られた所で何か拙い事がある訳でもないのだが
色々な個人的事情、心持ちもあって、なかなか言い出せずにいた。
簡潔に言えば言うつもりであったものを先延ばしにしてしまっていた。
初めに誤魔化したのは曲がここまで出来上がる事なぞ考えてすらいなかったから、出来ないを前提にしていたから隠したのだ。
それに何よりその性で寝ていなかった、なんて知られた日には零に止められるだろう。
最悪、強制睡眠をさせられるかもしれない。
そう思ったら言えなかった。
『な、なんでですか…？』
恐る恐る質問の意図を尋ねる。
「おぬしがそう聞き返す時はそういう時じゃからなぁ。」
一体どういう時…！？
答えになっていない答えに対して疑問は湧き出てくるが、長らく一緒にいる零がそう言うのだから、きっと自分自身も把握していない、そういう部分があるのだろう。
零に隠し事をしても、すぐ見破られてしまうのは何だか悔しい。
『その、貴方のライブを見に行ったあの日から…作曲をしていて…。』
「作曲じゃと…？！」
『そんな驚かなくても…。』
「いや、我輩からしたら大ニュースじゃよ。それで、その曲はどうなったんじゃ。」
零は興味津々にこちらの話に耳を傾けている。
『…そ…の曲が、そろそろ…。』
期待に満ち溢れている表情に圧倒され、思わず口篭る。
それから漸くして
『完成、するっていう…お話です。』
と言い切ると
「おお…！嬢ちゃんの曲が聞ける時が来たか。」
零は嬉しそうに顔を緩めて少女の肩を優しく掴む。
『気が早いです！』
「だって早く嬢ちゃんの曲が聞きたいんじゃもん。」
『じゃもん、じゃなくて…。』
零は何時でも自分の曲を求めてくれている。
それを拒む自分もいて満更でもない自分もいる。
素直になれば、接し方に悩む事も無いのだろうが
生憎それで生きられるほど器用に生まれてきてはいない。
「歌詞は、着いておるのかや？」
『い、一応…。』
「ワンコーラス─『嫌です』
人差し指を立てて要求をしてくる零の言葉を言い切る前にばっさりと断るけれど
『…完成したら、考えます。』
「分かったぞい。我輩は良い子にして待っておるから、ゆっくり考えておくれ。」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
