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「我輩どうじゃった？」
ライブから数日後、音楽室に来るなり零は身を乗り出して少女に食い気味になって聞いた。
少女の感想を聞くのが余程楽しみなのか、期待に胸を膨らませているのが見て取れる。
というか、全面的に顔に出ている。
まるで同メンバーの犬系男子─…否狼男子さながらである。
寧ろそちらよりも大分犬化が進行しているかもしれない。
『えぇ。凄くかっこよかったですよ。』
「うむ。嬢ちゃんのその言葉が聞けて満足じゃわい。」
零はまた例のカウチに腰掛けて、何時もより上機嫌に少女の準備するのを見ている。
その視線に見守られながらピアノを用意する。
少女はあの夜以来、別の曲制作に勤しんでいる。
それも、睡眠時間を削って。
作業する寮部屋は、整理整頓され清潔なのだが机の周りだけは丸まった紙やら、折れた鉛筆の芯やらが散乱しており、今日なんて机上の電気を付けっぱなしにして出てきてしまっている。
これこそ生活習慣が乱れていく、所謂健康が侵食されていく状態に一歩近づいている証拠なのだろう。
何れは食事なんかも即席麺やエナジードリンクなんかが毎日食卓に並ぶようになるのだ。
少女は考えるのを放棄した。今は目の前の曲を作る事に専念しようと心に決めた。
食生活は学食で補えば大したことでは無い。
睡眠は音楽室にいる間、一通り曲を弾き終えて満足した自分の横で、同じように満足した零が一眠りを始める様を見て、睡眠を間接的に摂取しておこうと思う。
半ば横暴な考え方ではあるが、無理に別の事に気を使おうとすると、先日のあの清々しい感覚が一気に抜け落ちてしまいそうで不安なのだ。
「嬢ちゃん、最近忙しそうじゃのう？課題かなにかあるのかえ？」
そんなに慌てているように見えたのだろうか。
確かに心の内では、忘れぬように、忘れぬようにと焦燥感を感じてはいたがこうも見抜かれてしまうとは。
零は人間観察が上手い。
上手いという表現が適切かどうかはさておき、人のことをよく見ている。
だから偶にどきりとするような事を言われる事がある。
大抵正解で図星をつくか、話題を逸らすかしか逃れる方法がないのだが。
『はい。…まぁ、そんな所です。』
あくまで作曲をしているから、とは言わずに誤魔化してみる。
零はほんの少し目を細めて少女を見た。
『な、なんですか…私の顔に何かついてますか。』
「いいや、ついてはおらんよ。…そうか、課題か。あまり無理はせぬようにな。」
『は、はい。』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
