吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ21)

今日:23 hit、昨日:24 hit、合計:19,779 hit

21 ページ21

思わず間の抜けた声を出す零。
想定外の返答が返ってきたことに現実を信じられていない様子だった。

少女は釘刺すようにもう一度言う。

『貴方のライブを！見に！行くって！言ってます！』

「聞こえておる！おる…んじゃけど…いざ、そう言われると…。」

先程の少女のように口篭る零。その珍しいもの見たさに少女は零に詰寄る。

口元を隠す零の口角は僅からながらに上がっている。

喜びで頬が緩み、吸血鬼や夜闇の魔王という通り名からは想像し難いほど人らしい、年相応の感情表現に対する羞恥。

『…笑ってる…？まだ本気にしてないんですか…？』

零の言葉に疑心暗鬼になり始める少女。少しむっとして、このままでは矢張り行かないと言われてもおかしくはない状況であった。

その展開だけは避けたいと零は誤解を解くために、少女のご機嫌取りも兼ねて想いを伝える。

「ち、違うんじゃ。…素直に嬉しいんじゃよ、嬢ちゃん。ありがとう。」

そう言って少女の頭を優しく撫でる。

『…頭撫でるのやめてください…髪の毛、ぐしゃぐしゃになります…。』

「そうじゃったな。すまぬのう。」

撫でる手を止めて、零は少女の言葉を噛み締める。

「…嬢ちゃんが我輩のライブに来てくれるのは何年ぶりかのう…？」

『二、三年位…ですかね。』

「我輩、嬢ちゃんの為にも頑張るぞい。」

零は少女が見に来てくれる事に対して、大袈裟な程に意気込んで満足気に微笑む。

内心、少女は何故自分が突然零のライブを見に行く気になったのか疑問に思っている。

零と距離を置く為、関係性を深めない為、あれほど避けていたというのに。

幼少時代の名残のせいか、はたまた人気を得ていく彼の背中を恐らく一番近くで見て来たという身内目線のせいか。

それとも関係の無い、単純で純粋な彼見たさか。

『でも、きっと見つけられませんよ。私の事は。…影ながら、応援していますから。』

「見つけるさ。嬢ちゃんがどこに居ても、我輩は見つけに行くからのう。」

零は真っ直ぐ少女の目を見てそう言う。

あまりにも真剣な眼差しだったもので、思わず顔を逸らし、真に受けぬ態度で苦笑した。

『なんですか、それ。ちょっと怖いんですけども…。』

零の言葉に若干の恐怖を感じながらも、彼なら実行しかねないという別の不安も浮かび上がってきた。

その言葉に妙な安心感も覚えた。

何故かはやはり分からない。