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「Aちゃん〜！来てくれて嬉しいよ。ごめんね急に呼び出しちゃって、忙しかった？」
薫が不安そうに問い掛けてくる。
少女は首を振って答えた。
『忙しくはなかったんですけど…あの、どうかなさいましたか…？一応何となく状況は分かってるつもりで…。』
「朔間さんがずっと棺桶に篭もりっぱなしなんだよね〜。練習も歌もいつも通りなんだけど。」
苦笑しながら棺桶の方に目線をやる薫を見て、やっぱりか、と予想的中してしまった事に対して呆れた顔を隠せない少女。
「俺たちでどうにかしなきゃとは思ってたんだけど、流石に痺れ切らしちゃったわんちゃんが黙ってなくてね…。それで君に。」
申し訳なさそうに事情を説明する薫に、少女も謎の申し訳なさを感じ思わず
『なんだかす、すみません…』
と何故か謝ってしまった。
自分は別に零の身内でもなんでもないのだが。
「謝らないで謝らないで…！女の子に頭下げさせるとか絶対にさせたくないから！」
薫は女子人気が高く、女子とであればコミュニケーション能力も人並み以上にはある。
しかし反面同性に対してだと途端に厳しく苦手意識が出たりする。
女好きのナンパ野郎等と影でこそこそ言う輩も一定数はいるようだが、彼は根っからの真面目な気質も持ち合わせている為、向こうが想像している以上にしっかりしている。
こういった紳士的な言葉や行為が、薫の魅力の一つであり異性からの理想なのであろう。
「この後用事とかはある？」
『いえ、特には…。』
「じゃあいいだろ。」
間に入る晃牙を薫が「ちょっと」と制す。
「ごめんね…お願いしてもいいかな？もちろん俺たちも手伝うし、後、危ないから寮までおくるよ。」
『いえそんな、寮なんてすぐ近くですし。』
「ダメダメ、こんな男だらけの場所で、ましてや暗い中女の子一人で歩かせちゃ。」
薫の厚意を無下にすることなぞは勿論出来ず、押しに負けて少女は謝りながらお礼をした。
それから棺桶に近付くと、アドニスが少女に場所を譲り、それに続いて他メンバーも棺桶の周りを囲った。
少女は先日の零に対する感情は一度置いておこうと、心を整理して零に、正しくいえば棺桶に話しかけた。
『…あの─』
その時棺桶の蓋が突如として開いた。
思わず少女も驚いて、その場で固まる。
棺桶に伸ばしていた手も空中で止まったまま、戻す事さえ忘れていた。
「その声、嬢ちゃんかえ…！？」
思いの外、吸血鬼は早く起き上がった。
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
