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ある噂が流れた。
この夢ノ咲学院には、七不思議が存在するという。
とはいえど、実態もなければ証拠もない。
周囲は噂好きの誰かが人から人へと吹聴して広まった子供遊びの創作物と。
所詮は噂に過ぎない、と誰もがタカをくくっていたらしいのだが。
どうやら、その内の一つ「音楽室」とやらが
不気味な事に実在するらしい。
一度は聞き馴染みのあるその名は、余計に生徒らの関心を失せさせた。
事の発端は、とある生徒からの証言だった。
誰も居ない筈の夜の校舎、名の通り音楽室にてピアノの音が鳴り響いていたという。
寮制にも関わらず、何故真夜中に校舎へ立ち入っていたのかは定かではないが、恐らく肝試し感覚だったのだろう。
実際、本人は自称オカルト好きだと発言している。
そうして当人が何処からともなく聞こえてくるピアノの音を追うと、音楽室へ到着。
室内へ入るとそこには、女がひっそりと佇んでいたという。
あまりの恐怖で腰が抜けてしまい、その後は情けなくも全速力で寮へと逃げ帰った。と、ここまでが当人の実体験だ。
それからあの部屋が、
アイドルを目指して入学したものの夢破れてしまい、その無念から無くなった少女が今なお好きだったピアノを弾き続けている
そういった憶測まで付けられた壮大なストーリーとなり、
語られるようになったらしい。
『………信じられません。』
携帯を片手に、頬杖をつきながら溜息をひとつこぼす少女。
この部屋には彼女しかいない。
『音楽室の少女霊だなんて…』
ここは音楽室。そして彼女こそ、噂の原因となってしまった女子生徒
Aである。
彼女は普段、寮からこっそりと抜け出してここで夜な夜な作曲を続けている日々を送っていた。
まさかそれがこんなにも裏目に出るとは思いもしなかったのだ。
『これじゃぁ、作曲どころか音楽室に一人で入るのも難しくなってしまった…どうしましょう…。はぁ辛い…。』
ほとほと困り果てて、息をする度にこの先を案ずる不安やら、自分の行動への後悔やらが漏れ出していく。
すると扉がキィ…と音を立てて開かれた。
少女は突然扉が開かれた事に、驚きもしなかった。
何故なら、少女だけでなく、"彼"もこの部屋の常連だからである。
「うむ。今日もおるなぁ。嬢ちゃん、やってるかえ？」
『すみません、今は閉店中です。』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
