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今日は「キャッ」って言わなかった。

その力に逆らわず、少し低い場所にある胸の中におさまった。

この前は、両手をあげ、無抵抗なのか降参なのか服従なのか、情けない姿をしていた。

今日はもちろん違った。




片手は頭を、片手は体に、ふわっと巻き付いていた。

そして、私の頭に唇をつけ、男っぽい声を出した。






有岡「すげー嬉しい。

  もう絶対離さねえかんな」





最後に、髪の毛にキスをされた。

リップ音もしないし、見えないけど、グッと唇が押し付けられたから。



頭に巻き付いてた手が、私の顔の方向を動かした。

有岡の顔を見上げる形で目が合っている。












有岡「キス……してもいい?」






何度もしてきた。

だけど、初めて聞かれた気がする。






ぶつかったみたいなキスをしてた小学生時代。

そんな事ばっかり考えてたであろう中学時代。

当然のように奪われた高校時代。

ずっと誰かのものだった大学時代。






A「……うん」






そんなに広くない部屋でも、有岡にしか聞こえないくらいの小さな声で返事をした。


有岡のちょっと冷たい細い指が、私のほっぺを包んだ後、そのまま滑らせ顔周りの髪の毛をすくいあげて止まり、顔の角度をつけられた。

そして顔がゆっくり近づいてきたので、そっと目を閉じた。





顔に体温を感じてすぐ、柔らかい唇が触れた。

柔らかい唇は、あの頃と変わらない。

変わった事といえば、その唇が優しかった事。

優しく唇を押し付ける、ソフトなキス。

数秒くっついた後、ゆっくり離れた。







5cm、10cm、20cm……

目を合わせたあと「ふっ」って笑われた。

照れ隠しと、もう一つの理由。






有岡「大人の味がした」





A「えっ」






有岡「ビール」
A「ビール?」




A「え、そんな味しないでしょ?」




有岡の胸にトンッて寄りかかった。

目の前ある赤い口からは、アルコールの香りがするのか分からない。

自分も飲んでるから。





有岡「大人の味がしたのに、ファーストキスみたいだった」





A「え……」





小二のバレンタインの時に、有岡に奪われたファーストキス。





A「あの時は、チューリップサブレの味だった」





有岡「覚えてるんだ」





A「半分唇じゃないとこにされて。

  チューリップサブレがほっぺについちゃってて、お母さんに言われたの」





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作者名:やまぱん | 作成日時:2019年6月20日 23時

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