罪で結ぶ絆 2

さくら ページ10

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　裕太の部屋で、一緒に朝食を食べる日
が来るなんて考えたこともなかった。

　朝には、掌の傷からの出血は完全に止
まっていて、必ず病院に行くように何度
も言ってから家を出た。


「玲さんは心配性だね」って笑う裕太。

　
　振り返ると、いつまでも手を振ってい
る裕太の姿があって。そのふにゃんとし
た笑顔は、裕太の一番の魅力だった。




　いつか私が奪ってしまう時が来るとし
ても……

　どうか、どうかその笑顔がずっとずっ
と続きますようにと願わずにはいられな
かった。








＊ ＊ ＊







ほろほろと零れるような春の陽。



　まだ桜の花を散らす風は吹いておらず
今週末、ソメイヨシノは丁度見ごろを迎
えていた。

　用賀駅に着くと、すでにひろは待って
いて、私を見つけると恥ずかしそうに近
づいて来た。




「玲さんと会うのって最近はずっと昼間
　でしょ、俺、こういう普通のデートみ
　たいなのって気恥ずかしいっていうか
　やっぱり慣れねぇーな」

「慣れない？」

「あぁ、慣れないね」

「嫌？」

「嫌じゃないよ、慣れないだけ」



　何でもない風を装っていても、最近に
なり、ひろが照れているのがわかるよう
になってきた。






　色々な取り決めがあって、ボーイズク
ラブを通さないと指名をすることができ
ない。

　オーナーの黒川さんは、男娼が客に会
う日を全て把握しているようだった。

　だから裕太とのことは、私達だけの秘
密だ。あれから裕太はどうしているのだ
ろうか？

　ひろの様子はいつもと変わりなく、裕
太に何か悪いことが起きている感じはし
なかった。

　だけど気になる裕太のこと。後でさり
げなく訊いてみよう……






　今日は、桜が綺麗な公園に行きたいと
リクエストしておいたら、用賀駅で待つ
ように連絡が来た。



「私ばっかり週末になるとひろを独り占
　めしてない？他のお客様が怒っちゃう
　ね」

「んはは、そんなに指名ないよ」



乾いた笑い声を立てるひろ。




「嘘ばっか！」

「もういいじゃん、その話。今日はね、
　玲さんにとびっきりの桜を見せてやる
　よ。砧公園の桜めっちゃ綺麗だから」

「実はね、お弁当作って来たの」

「えっ？」



　驚いたのか、ひろは目を見開いて動か
なくなってしまった。ただ突っ立って私
のことをじっと見ている。



「ひろ？」

「え？マジでっ？」

「ふふっ、マジで！」





「ありがと……」



それは、微かな声だった。







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