罪で結ぶ絆 2

微睡みの中 ki ページ44

・






玲さんに、ボーイズクラブを辞めるよう
に言ったのは俺だった。

恋人になった以上、多額の金を払ってま
で入っている意味が無いし、もう玲さん
に金を払わせたくなかったから。


彼女は「ひろが悪いことにならない？」
なんて心配してくれたけれど、そんな心
配は、俺にとって取るに足らないことだ
った。


“玲さんがやめても客は沢山いるから”

“そっか……そうだよね”

“あ……ごめん……”

“ううん、気にしないで”



玲さんには、俺の仕事の話をしたくなか
った。

もし俺のことを本当に好きでいてくれる
なら、嫌な思いをするだろう……

好きと言ってくれているのに、こんな言
い方はおかしいのかもしれない。

けれど、本当に俺でいいのかいつまでも
信じられない思いもあり……目覚めると夢
だったんじゃないかとさえ、今も思うこ
とがある。







隣にいれば触れたい、彼女を喜ばせたい
甘えさせてやりたい、笑顔を守りたい。
と、そんなことばかり考えている自分。


正直、仕事柄女には慣れていたけれど、
玲さんを前にすると泣きたくなるほど幸
せで、そして泣きたくなるほど哀しくな
ってしまうんだ。


まともな恋愛を知らない俺だから、それ
を言葉で上手くは表現出来ないけれど

あの日以来、俺が見る景色は色づき、玲
さんが隣にいてくれるだけで心が温まる。


彼女は俺の全てになった……。





* * *




歌声が聴こえてくる。
とても優しい声で。



“母さん……？”



カチャカチャと食器がぶつかる音と、懐
かしい味噌汁の匂い。

ねみぃ……

薄く目を開けると、キッチンに立つ後ろ
姿が見える。心地良い微睡みの中で、俺
はその後ろ姿を、只ぼんやりと見ていた。

暫くすると、玲さんがこちらに歩いてく
るのが見え、俺は慌てて目を瞑った。



「ひろ、目玉焼き何個食べる？」

「……」

「朝ごはんですよー」


優しい掌が額に触れた。


「……」

「ほら、起きて？」

「……」

「こーら、何時だと思ってるの？」



鼻をむぎゅって摘まれ、くすくすと笑う
声がする。

この愛しい時間をもっと味わっていたく
て、俺は寝た振りをしていた。



「ひーろ」

「……」

「ふふっ、本当は起きてるんでしょ？」

「……」






ギシッと微かな音と共に俺の上に乗って
くる。


「寝た振りしてるのわかってるよ……」



甘やかな香りと共に、耳元で彼女の優し
い声がした。







・

ハート ki→←見透かす視線 ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す