罪で結ぶ絆 2

優しい手 ki ページ39

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この日は抗生剤の点滴をしてもらい、抗
生物質を処方されて帰された。





玲さんは、点滴をしている間もずっと廊
下で俺を待っていてくれた。

処置室から出ると、廊下のベンチの背に
もたれかかり、所在なげに俯いている姿
が目に止まる。


そんな彼女を見ていたら、安心するのと
同時に胸が苦しくなった。まるで心を鷲
掴みにされているみたいに

ぎゅっと……ぎゅっと……



自分にもう一度言い聞かせる。

彼女は俺の客だ。俺と玲さんを結ぶもの
は金なんだと。





「玲さん、待たせてごめんな」

「ひろ……」


不安げな表情の彼女だったけれど、俺を
見るなりとホッとしたのか、可愛い口元
をほころばせた。







「ひろ、明日には熱が下がってるといい
ね」


そう言いながら、さっきコンビニで買っ
てきたゼリーを俺に差し出す。


「食欲なくても、ゼリーでもいいから食
べないと駄目だよ。脱水症状になるとい
けないから」



「うん。玲さん……」

「ん？」

「ありがとう、もう遅いからタクシー呼
んで。俺、金払うから」


玲さんは哀しそうな顔をした。


「うん……」

「ね、明日は会社だろ？俺はちゃんと店
に連絡して休みもらうから。もう大丈夫
だから」

「ひろの傍にいちゃダメ？」

「え？」


ベッドに横になった俺の隣に寄り添い、
玲さんの腕がゆっくりと、微かに震えな
がら俺の身体に回る。





「嫌なら……突き放して……」






彼女の表情は見えなかった。心臓が大き
く、ドクンドクンと脈を打つ。

突き放すことなんて出来なかった……

耳元で聞こえたその声が、心臓に直接触
られているように切なげだったから。


ほら、突き放せよ。ダメだって。
わかっているのにっ



どうにもならない心……





「ひろは、沢山の苦しみを背負っている
んだね……私にはわかるの」

「玲さん……」



優しい声が、俺から理性を奪う。
心を揺さぶってくる。








「ねえ、こんな話知ってる？」


玲さんの手が、俺の背中を優しく叩き始
めた。母親が子供をあやすように、ポン
ポンと規則的に。



「心の襞って、多く生まれ持った人もい
るんだって。持って生まれた数は違うけ
ど、苦労して、流した涙の数だけ襞は増
えるの。

襞が多い人はね、黙っていても人の心が
わかるから、人の痛みに反応して共感し
ちゃうの……だから自分のことがいつも
後回しなんだよ……」





玲さんは、泣き笑いのような顔になって
俺を見つめた。








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