罪で結ぶ絆 2

さざなみ ページ4

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「裕太、待って」

「何？」

「怪我してるでしょ？見せて」



「大丈夫だから」

「そう言われても心配だよ」








「彼は？」

「あの……、私の従弟なんですっ」



　咄嗟についた嘘。後ろめたさに、先生
の顔を見ることができなかった。

　けれど先生は何も言わず、お財布から
お札を取り出し私に渡してくれた。



「そうか。玲ちゃん、これタクシー代ね
　その子を家に送り届けてあげるといい
　よ。危ないから、玲ちゃんはタクシー
　から降りないで真っすぐ帰りなさいね」

「こんなにいただけませんっ、それに戸
　部先生に甘えるわけには」

「いいんだよ、今日は楽しかった。また
　付き合ってね」

「ありがとうございます……」



　戸部先生は、何かわけありな関係だと
気付いたのだと思う。

　ホステスにはよくある話だと思ったの
かもしれない。何も訊かず、目尻に深い
皺を作ると片手を上げて帰って行った。




残された私達……


　裕太を見れば、疲れ果てたような顔を
していた。

　裕太はいつもマイペースで穏やかで、
あまり表情を変えたりしない。こんな彼
の顔を見るのは始めてだった。

　店に行かないこともあり、あのふにゃ
んと柔らかい笑顔も、もう久しく見てい
ない。




「あの人、本当に玲さんの上司？」

「んー、本当は違うの。お世話になって
　いる病院の先生よ……でも不倫してい
　るのは本当。誰にも言わないでほしい
　の」



　裕太にホステスということを知られた
くなかった。

　私の見え透いた嘘なんて気づいていた
のかもしれない。真っ直ぐな裕太の視線
が痛い。

　けれどそれ以上私について訊いてくる
ことはなく「わかった」ただそれだけ言
っただけだった。




「裕太の家はどこ？タクシーで帰ろう」

「え？いいよ」

「お金なら頂いたから。大丈夫」

「ふぅーん、金持ちなんだねさっきの人」

「うん……」



「だけど……そういう意味じゃなくてさ
　本当にいいから」

「だって、裕太を一人にできないっ！！
　こんな場面に出くわしたら、心配にな
　るよ」


「……」


「傷、見せて。ほらっ」



私が言うと、素直に掌を差し出した。

　右手の掌には刃物の痕が一直線につい
ていて、まだ血が滲んでくる。






「ナイフを向けられてさ……俺バカだ
　から思わず刃を握っちゃったんだ」

「ばか……」






「ミツには絶対に言わないで」




　その真剣な表情に、私は頷くことしか
できなかった。






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