罪で結ぶ絆 2

手負いの獣 ページ20

・







裕太の顔に貼り付いた狂気……とでも言
えばいいのだろうか？


目を見開き、顔を強ばらせた裕太の蒼白
な顔色とは対象的に、その燃える眸はま
るで獰猛な手負いの獣のようだった。



足がすくんでが動かない。



声を出して裕太に呼びかけたいのに、喉
に何かが張り付いて声にならなかった。





「玉、それを俺に渡して」



ゆっくりと、ひろが裕太に手を差し出す。
低く落ち着いた、とても優しい声だった。




「やだ……」

「玉ちゃん……渡してよ」



ひろが一歩近づくと一歩下がり、今度は
ナイフをひろに向けた。




「近づくなっ！」


こめかみから汗が流れ、荒い呼吸を繰り
返しながら大きく被りを振る裕太。



「そんな危ないもん持ってんなよ」

「ミツ……頼むから来ないでよ……」



頭を振りながら、涙声で鼻を啜る裕太を
見ていたら、胸の奥がぎゅぅって痛くな
ってきて……

痛くて、痛くて、痛くて。

息を吸いたいのに、まるで肺に入ってこ
ない






「大丈夫だから、玉ちゃんをもう誰も傷
つけないよ……ほら……渡して……」


両手を胸の前に上げ、ひろがもう一歩近
づいた。


「これ以上来たらっ――、」






『黒川さん、こんばんは！』


裕太が言いかけた時だった、壁の向こう
から、店員逹の声が聞こえてきた。






オーナーが来たんだ……。

刹那、ひろの眸ががらりと変わった。






とろりと溶けたような、それでいて高潔
でありながらも、残酷さを秘めたような
眸だった。


　
「大川さん……だから言ったでしょ？ト
ラウマ持ちの玉森はやめろって……マジ
で怪我するよ？」

「……っ」



「俺が相手するって言ったのに何で？玉
森になんて浮気しないでよ……」




ひろは向きを変え、男のシャツの襟をグ
イッと掴むと、自分の方に引き寄せて妖
しく熱を孕んだ眸で見つめた。



「いつもみたいに……キスして……」




誘うように舌なめずりをした後、指をぺ
ろりと舐めると、濡れた指でその男の薄
い唇をいやらしく撫でた。

更にシャツを引き寄せて自分の唇を柔ら
かく押し当て、唇を軽く合わせたまま低
く掠れた声で囁く。




「ねえ……」


その挑発するような眸がとても煽情的で
その男の喉仏がゴクリと大きく動いた。



「俺をこんな身体にした責任取ってよ」



そのあまりにも妖艶な眸に……



「宏……光……くん……」



ついにその男は、魅入られたような眸を
して上ずった声をだした。









・

意図→←後悔

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す