罪で結ぶ絆 2

深緑の季節に ページ17

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「古い方が落ち着くって言うのは何とな
くわかる気がするかも」

「事故物件なんだよ、だからすげー安いの」

「事故物件？」

「うん、上の階でね……首吊りがあった
んだよ。そういう物件て皆嫌がるでしょ
？だから安いんだよ」


ひろはそう言うと「出るんだって……」
と小声になり、私の耳元で「幽霊が」そ
う続けてからニヤッと笑った。


笑えなかった……

ヒヨリの最期の姿が浮かんだ。




鼓動が早くなり、目がチカチカする。軽
い眩暈を覚えよろけると、ひろに身体を
支えられた。



「触らないでっ！」

「えっ、ごめん……」


咄嗟に出た言葉に……
目を見開いて固まるひろ。


「――っ……、ごめんなさいっ……」



「玲さん？」

「……え？」



「あの……わりぃ、出るってのは冗談だか
ら。気分悪い？」

「ううん……もう大丈夫」

「顔色悪いぜ？」



私の身体を支え、心配そうな表情で、顔
を覗き込むようにして訊いてくる。



「ちょっとクラっとしただけ。本当に大
丈夫だから」

「そう……」

「うん……私、今日は帰るね……」

「……え？帰る？」



驚いた様子のひろ。彼が纏う空気が一瞬
変わった気がした。



「うん、ここでいいから」

「わかった……」



お財布を出し、支払おうとすると財布ご
と手を掴まれた。


「いらないから」

「え？」

「今日は金貰えない。弁当すっごい旨か
った。あれで充分だよ」

「でもっ」




「いいんだって。ありがとね……気をつ
けて」



アーモンド型の、クリっと切れ長の眸が
弧を描く。


なぜだろう？


ほんの一瞬……ほんの一瞬だけ、憎いは
ずのその笑顔が、なぜかとても懐かしく
思え、切なさに胸がぎゅっと締め付けら
れた。



振り返りひろを見ると、立ち止まって私
を見ていた。



もう一度振り返れば、去っていく後ろ姿。

少し前かがみのいつもの背中だった。





* * *





それから、私は週末になるとまたお店に
も行くようになった。

裕太のことがどうしても気になっていた
から。


「玲さん何にする？」


ふにゃんとした笑顔の裕太はもういつも
の裕太で、あの時の彼は別人だったので
はないかとさえ思う。


ひろと会うのは、大体週末の昼間。土曜
日の夜に泊まることもあった。

彼は何も変わらず今まで通り。私がして
欲しいことは何でもやってくれた。







そして――

いつの間にか新緑は深緑に変わり




まだ梅雨に入る前、その事件は起きた。






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