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「それで、どこに向かっているんですか？」
櫻井は大野に訊ねる。
「……小笠原雄一郎の家だ」
「小笠原？」
「小笠原雄一郎、小笠原建設の創始者。
1928年生まれ。32歳の時に小笠原建設の
前身である小笠原工務店を大阪に設立し、
社長となる。その後の高度経済成長の
流れに乗って小笠原工務店は成長を続け、
1964年には東京に支社を出し、
さらに1968年には株式公開、
その際に小笠原建設に……」
松本は俯いたまま、
資料を棒読みするような口調で
喋り続ける。
「翔ちゃんさ、小笠原建設ぐらい
知っているでしょ？」
二宮が声を張り上げ説明を遮る。
松本は不満げに、
長い前髪の奥から二宮を睨んだ。
「小笠原建設って、
大手ゼネコンのですか？」
「そうですよ。そのゼネコンの創始者を
一年ぐらい前から、僕と潤くんが自宅に
往診して診ていたんです。まあ、
主治医は潤くんで、僕は
ちょっとしたサポートだけどね」
「診ていたって、
なんの病気なんですか？」
「末期の膵臓癌さ」
「膵臓癌？」
櫻井は軽く目を見張った。
「ああ、去年癌が見つかった時は
既に全身に転移していて、余命2、3ヶ月
ってところだったんだけど、潤くんが
化学療法を行ってかなり延命できたんだ。
その間に、小笠原雄一郎は身辺整理をした。
僕はその際に、精神的なサポートを
行っていたんだ」
「はあ……」
櫻井は気の抜けた返事をする。
往診での緩和治療、
それ自体は特に珍しいものではない。
いったいなぜ、
クリニックの全員が出張る必要が
あるのだろう。
「みんなで向かっている理由は、
いまから説明するよ。
せっかちな人ですね、君は」
櫻井の態度から心を読んだのか、
二宮の視線が鋭くなる。
櫻井は首をすくめた。
「……緩和治療は順調だった。
疼痛に対してはフェンタニルの
パッチ剤でコントロールできていたし、
精神的な落ち込みに対しては和が
ケアをしていた。……先週までは」
松本が俯いたまま、ぼそぼそと
聞き取りにくい声でつぶやく。
「先週、なにかあったんですか？」
「急に疼痛のコントロールが
上手くいかなくなったんですよ」
櫻井の質問に、二宮が
後頭部で両手を組みながら答えた。
「……かなり強い痛みを訴えたんで、
副作用に注意しつつ、麻薬の量を
増やしたんだ。……けれど、痛みは
治まるどころか悪化していった。それに
……癌がないはずの場所まで痛み始めた。
それで気付いたんだ……。
これは精神的な疼痛だって……」
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未翔(プロフ) - あきさん» 読んで頂いてありがとうございます！ここから更に急展開ですのでお見逃し無く！！ (2021年5月25日 22時) (
レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - shioribaron0307さん» ありがとうございます！ (2021年5月25日 22時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - うわぁ〜急展開！！ワクワクしますね。続きを楽しみにしてます。 (2021年5月25日 15時) (レス) id: de45e6159d (このIDを非表示/違反報告)
shioribaron0307(プロフ) - お話面白かったです。続き楽しみにしています！ (2021年5月22日 14時) (レス) id: 7628593eb6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年5月15日 12時
