プロローグ ページ2
・
ここは、……勝本病院？
霞みがかったような白黒の世界のなか、
櫻井翔は自分の体を見下ろす。
手術着の上に白衣を纏った自分の体を。
その瞬間、頭に痛みが走った。
あぁ、そうだった。
俺は前日の深夜まで
友人の結婚式の二次会で痛飲して、
夕方からの当直中もずっと
頭が痛かったんだ。
それでも問題はなかったはずだった。
月に二回行っていた、
日曜の夕方から月曜のまで板橋区の
小さな個人病院での当直業務。
救急指定もされていない
この病院での勤務は、
患者の急変に備えて待機しているだけの、
典型的な『寝当直』だった。
けれど、この日は違った。
そう半年前のこの日は……。
思考がまとまらない櫻井は
廊下を進んでいく。
どこからかカラカラと音が聞こえてきた。
なんだこの音は？
辺りを見回した瞬間、
『止まれ、行くな！』と頭の中で
誰かが警告を発する。
しかし、足を止めることが出来なかった。
廊下を抜けると、非常灯の薄暗い明かりに
照らされた一階の外来待合に、
３人の人物がいた。
太った中年看護師と初老の男、
そして腹から血を流して
長椅子に横たわる青年。
初老の男はタクシーの運転手だ。
彼が青年をここまで運んできた。
どうして自分がそのことを知っているか
分からないまま、
櫻井は横たわる男に駆け寄る。
若い男だった、
年齢は20歳前後といったところだろう。
痩せていて頬骨が目立つその顔は
苦痛で歪んでいた。
右の下腹部を押さえた両手は血で
べっとりと濡れている。
「聞こえるか？君、名前は？
何があったんだ？」
怒鳴るように尋ねると、男の口が動く。
しかし、何故かその声は聞こえなかった。
櫻井は男のＴシャツをまくる。
右の下腹部に大きな傷口が開き、
そこからだらだらと
血液があふれ出していた。
刃物で何度も刺して広げたような傷だった。
「誰かに刺されたのか?!」
「……違う。自分でやったんだ」
男は弱々しく顔を左右に振った。
自分で？
戸惑いながら櫻井は白衣のポケットから
ハンカチを取り出し、それを傷口に当てて
軽く体重をかける。
男の口から苦痛のうめき声が漏れた。
状態から見て腹腔内でかなり出血している。
圧迫止血で少しでも
出血量を減らしたうえで輸血を行い、
さらに回復して止血をしないと。
看護師に指示をしようと振り返るが、
そこには誰もいなかった。
しかし、櫻井は何故か驚かなかった。
そう、……看護師もタクシー運転手も
いつの間にか消えていたんだ。
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未翔(プロフ) - あきさん» 読んで頂いてありがとうございます！ここから更に急展開ですのでお見逃し無く！！ (2021年5月25日 22時) (
レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - shioribaron0307さん» ありがとうございます！ (2021年5月25日 22時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - うわぁ〜急展開！！ワクワクしますね。続きを楽しみにしてます。 (2021年5月25日 15時) (レス) id: de45e6159d (このIDを非表示/違反報告)
shioribaron0307(プロフ) - お話面白かったです。続き楽しみにしています！ (2021年5月22日 14時) (レス) id: 7628593eb6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年5月15日 12時
