昨日の約束

9 ページ9

「なぁ、入学式の後、校舎くるよな？」
「あー。多分。オリエンテーションがあるらしいし」
「だよな。」


お互い大学名は言っていない。
聞かれてないし、聞いていない。
同じ大学なら、敷地内にある講堂で式をして、そのあと簡単なオリエンテーションがあるはず。
藤ヶ谷の歩いてく後をついていく。
先を歩く彼。
入学式へ行く彼。
まだ大学も始業していない俺。



そんな俺に不審に思ったのか振り返る彼。


「･･･何でついてくんの？」
「おれ、俺もそっちに用があるんだよ！」
「･･･そう。」



近くの大学･･･きっと同じ大学だよな？
それも確かめたい。
こんな昼からの入学式なら、多分一緒だけど。
もう時間帯も確認済みだった。
本当に同じ大学か知っておきたい。
もう、どこにもいかないと確証が欲しかった。



スーツ姿の藤ヶ谷は更にカッコイイ。
5年前は、制服も学ランだったし、
その他はもちろん私服だし。
再会した時も私服だった。


入学式ってこともあってスーツの藤ヶ谷。
次この姿が見えるのは就職活動の時かな。


今は背中しか見えないから、さっき見たビジョンを頭の中で何度も繰り返し思い出す。


「あのさ。後ろにいられるの気が散るから、隣り来てくんない？」
「え･･･っ」


藤ヶ谷が迷惑そうな表情でこちらをまた振り返った。
隣り行ってもいいの？
少し迷って動けずにいると、


「･･･早くっ」


睨まれた。
こえーよ。うそ。カッコイイよ。ばか。



話したいこと、聞きたいことはたくさんあったはずなのに。出てこない。なんだっけ。
何学部？
あれから見なかったけど何かあったの？


･･･いや、それは気にしてたみたいで怪しいか。


「･･･タマとはさ。一緒だったの？」
「へ、え、一緒って？」


何一つ聞けなくて、沈黙が続いているとそれを破ってくれたのは意外にも藤ヶ谷だった。
ビックリして、変な声が出てしまった。



「･･･高校」
「あー、高校ね。一緒だったよ。何か偶然志望校が一緒になるんだよな〜。高校も大学も」
「･･･偶然ね。」
「ん？なによ？」
「北山、ひとつ覚えてた方がいいよ？もういい歳なんだし。」
「何がだよ」
「偶然は、そんなにも起きないってこと」
「･･･どういうことだよ」
「それは王子にでも聞いてみたら？」
「は？王子？誰？おまえの友だち？」
「･･･もういいわ。あ、着いた」
「･･･本当だ」


着いたのは正門。
やっぱり、同じ大学だった。
安心からフーっと息を吐いた。

10→←8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す