昨日の約束

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「ミツ、起きたらいないから…心配したんだよ」
「･･･ごめん。」


藤ヶ谷がドアを開けに行くと、ドアの先には玉森がいた。その玉森の元へと歩く。


「･･･いいとこだったのに、」
「ごめん」


今度は小声で拗ねたように唇を尖らすと、それをみた玉森が笑いながら謝った。


「ガヤ、また今度飲みにでもいこーよ」
「そうだな」
「じゃあ、また」



玉森が手を引く。
その手に引かれて、後ろ髪を引かれる思いを感じながらも藤ヶ谷の部屋から出る。
最後、閉まりゆくドアの隙間から見えた藤ヶ谷はなんとなく悲しい瞳をしていた。


中学生の藤ヶ谷とどこか重なる。


なぁ、藤ヶ谷。
あの時いつから言い出せずにいたの？
何で言わずに去って行ったの？


聞きたいことはたくさんあるのに。
何一つ聞くことが出来ず･･･


藤ヶ谷、もうどこか行ったりしないよな？
あんな思いは二度としたくない。
絶望を味わったあの日。
枯れ果てた涙。
手紙だけが、希望だった。


逢えたんだ。
迎えに来てくれたんじゃなくても。
そばに藤ヶ谷がいる。
それだけでもあの絶望の日に比べれば充分過ぎるぐらいなのに。
欲張りになっちゃダメだ。


偶然でも。
隣りに藤ヶ谷がいるから。


ただ、それだけの事実なのに
自分の未来を照らしてくれるような気がした。


「ガヤってさ、学部どこなんだろ？今年入学って言ってたよね。何か聞いた？」
「･･･いや。どこなんだろ」
「何話してたの？」
「ん？蕎麦食ってた」
「･･･何、餌付けされてんだよ」


餌付けって。
呆れてる玉森の顔。


部屋に入ると、ベッドに倒れ込む。
そんな玉森を横目に、自分は低いソファーに腰掛ける。



「ミツ、寒い。こっち来てよ」
「ウチはエアコンなんてないんだよ。甘えんな」


隣りのお兄さん、エアコン置いてくなら、俺にくれれば良かったのに。


「おこた、入んなさい」
「そろそろしまったら？こたつ」


3月も終わり、新学期となる。
4月は履修登録など大変で。大学は人で溢れ出す。



藤ヶ谷はどこの学部なんだろう。

もし、同じ学部なら。
学年は違えどひとつでも同じ講義を履修できればいいのに･･･


あの頃のように、一緒に授業を受けたい。
ふと、そう思った。

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