昨日の約束

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「サンキュー」


お椀に入ってるのは、半分になったお蕎麦。
藤ヶ谷はソファーに座って、お蕎麦をすすりだす。
俺は床に座ったまま、そのまま蕎麦をすする。


無言のまま、ただひたすらすする音が部屋に響いていた。引越しそばって、無言で食べるルールあったっけ？あれ、それって恵方巻きだよな？


「･･･イギリス、どうだった？」
「ん？」
「綺麗なお姉さんとかいたかなーって。」
「すっげーいたよ。インターナショナルスクールみたいなとこに通ってた。大学は迷ったけど、こっちに戻ってきたかったから。1年遅れちゃったけど」
「･･･戻ってきたかったの？」
「まぁ。就職はコッチでしたいしね」


･･･何か。普通に話せてる。19歳の藤ヶ谷と。
もっと、再会したら感情がきて抱きついちゃうとか思ってた自分が恥ずかしくなる。



「･･･ついてる」
「え、」


藤ヶ谷が急に俺の口元に触れる。
離れていく指には刻み海苔が挟まれていた。
恥ずかしくなって、下を向く。


「美味しそうに食べるの変わってないな」



お前は変わったよ。変わってないけど、変わったよ。あの頃よりカッコイイ。色気も漂っていて、吸い込まれそうになる。


「･･･ふじがや、」


好き。
好き。
やっぱり、好き。


蕎麦を片手に藤ヶ谷を見上げる。
ソファーに座ってる藤ヶ谷。
床に座ってる俺。


藤ヶ谷の手が、もう一度…
頬に触れた。


「･･･宏光。」


ゆっくりと引き寄せられ、藤ヶ谷の顔が近づいてくる。


ずっと、触れたいと思っていた唇。
キスをしたいと思っていた。
俺の初めてのキス。


近づいてくる顔に、ゆっくりと瞼を閉じた。


ーーピンポーン


そんな時、聞こえてきたインターホンの音。
一瞬、藤ヶ谷の手が離れる。


ーーピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


次には、連打で聞こえてくる音。

･･･誰！？

せっかくいいところだったのに。


二人で目を合わせ、藤ヶ谷が首を傾げた。


「ミツ！いる！？ガヤ！ミツ知らない！？」
「･･･あ、」
「･･･タマか。」


ドアの向こうでこっちに向かって呼びかけてくるのは玉森だった。


･･･マジか。タイミング悪すぎ･･･っ！！！！


玉ちゃん！！！


「･･･王子のお迎えか」
「え？」

また、小声でポツリと藤ヶ谷が呟く。
何を言ってるのか要所要所聞こえない。


「いや、戻ったら？蕎麦も食べ終わったでしょ？」
「･･･ああ」


でも、俺はまだ藤ヶ谷といたいよ。
そんなこと言えないけど･･･

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