昨日の約束

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「こんな姿見せられて･･･誘ってるとしか思えねー」


こんな姿･･･？
藤ヶ谷が唇を離すと生まれる隙間。
その隙に下を向くと、雨で･･･Tシャツが透けていた。
肌にピタッとくっついているTシャツ。
胸元にふたつついている突起がパーカーがズレ落ちて薄く見えていた。


･･･誘って、なんかない。
不可抗力だ。


「可愛い。宏光。もしかして他のヤツにもこんな無防備なとこ見せてんの？」
「ーーーーー、」
「気をつけて？絶対オレにしか見せないで」


見せてる訳ない。
甘い甘い言葉が耳元で奏でられる。
ギュッと抱きしめられる。


でも、"好きだ"とは言ってくれないんだね。
藤ヶ谷は何を考えてんの？
女の子も欲しくて俺もほしいの？
俺だけなわけじゃないよね？


慣れたようなキス。慣れたような手つき。
指先ーーーーー･･･


俺は全部初めてなのに。
恋も、熱い抱擁も、キスも、深いキスも。
藤ヶ谷は俺が初めてじゃない。


俺以外にもそういう人がいる。
そう思うと辛くて苦しい。


俺ばっかり、好きで苦しい。


俺ばっかり、ずっと藤ヶ谷を待っていて悔しい。


他の子にも、こうして触れて、愛を囁いて。
きっとこれ以上のことも。お前はしてるのに。
俺は知らない。



「･･･藤ヶ谷は誰にでも…こういうことするんだよな」
「･･･え？」
「･･･簡単にヤラしてくれるなら…誰でもいいんでしょ？」
「何言ってんの？そんなわけ･･･」
「だって"好きだ"って一言も言ってくれないじゃん…！」
「･･･それは、」


言葉を濁す藤ヶ谷。手は強引に俺の腕を掴んでいるのに。声は弱々しく、俯く。"それは"の続きが出てこない。


「チャラい奴は嫌いだ！」


そう言って、思い切り腕を振りほどき剥がすと
パンっと音を立て藤ヶ谷の頬を叩いた。
一言欲しいだけなのに。
その言葉があれば…その言葉だけがあれば。
他に彼女がいても2番目でも。
目を瞑るのに。


その言葉さえ、くれない。


縮まったと思った距離は簡単に開いていく。


そのままドアを開け、藤ヶ谷の部屋を出ると自分の部屋へと戻る。
また、藤ヶ谷は追いかけてもくれない。


結局、あいつにとって俺はただの遊びで。何番目かの存在で。あの手紙のことなんて忘れてるんだ。


だって覚えていたら、
追いかけてくれるでしょ？


左手についている腕時計。
さっきまで、あんなに幸せだったのに。
だから嫌なんだ。幸せは。
幸せの後は、きっと不幸せが待っているからー･･･

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