昨日の約束

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藤ヶ谷には部屋で待っててもらって、急いでシャワーを浴びて準備をした。
稀に見る無駄な動きがない自分。
歯を磨きながらドライヤーで髪を乾かし簡単に化粧水をつける。
天気予報は今日なんだっけ。
さっき玄関開けた時、晴れていた気がする。もうすぐ梅雨だけど…きっと大丈夫だろう。
Tシャツに簡単なパーカーを羽織る感じで、デニムでいいかな？
普段そんなに身なりを気にしないくせに。
時間がないのに…頭の中で何を着るか考えながら、濡れた身体をバスタオルで拭く。


なんとか告げていた時間で準備を終えると、隣の部屋のチャイムを押した。


ドアを開けた藤ヶ谷はやっぱり爽やかだった。
いつものいい香りが鼻を擽る。


「お待たせしました」


コクリと頭を下げると、その頭にポンッと手が置かれる。せっかくワックスで整えた髪型をわしゃわしゃされてしまい、顔を上げると同時に睨みつける。


「待たされました。」
「ごめん」
「お詫びして？」
「･･･昼飯奢る」


朝飯も食べてないけど。
唇を尖らせ拗ねたように返す。
だって急に誘ったのそっちじゃん？とか金ねーんだけど？とか。惚れた弱みというか…そんなことは言えなくて。


「そんなのいらない」
「何が欲しいの･･･？」
「･･･、これかなー･･･」


そう言うと、藤ヶ谷は手を俺の頬に添えた。


ーえ･･･！？


驚くのも束の間ー。
藤ヶ谷の唇に塞がれていた。


二度目のキス･･･
え、え、え、え、えーーーーー！！！！


「ごちそうさま」


そう言って、また俺の髪をクシャッとして後手にドアを閉めていた。


チャッラ！チャラチャラ！！！
どうしていいか、分からない。
あまりにもよく分からないことされるから。
なに？なに？
外国はキスの文化があるんだっけ？


朝から何も食べてないのに･･･
血糖値絶対上がってる。


甘すぎ。甘すぎ！


俺をおいて歩き出す藤ヶ谷。
その背中を追いかける。


「ど、どこいくんだよ！」


恥ずかしくて、キスのことを触れられない俺は本当に･･･チキンだと思う。

「ん？北山に誕生日プレゼント買ってもらおうと思って」
「･･･あ！」
「あれ？誕生日忘れてた？」
「わ、忘れる訳ないだろ！」
「ふーん？」

いや、本当に忘れてない。
雨の季節。大切な人が生まれた季節。


「でもプレゼントってたかるものじゃねーだろ」
「いーの。たからないとお前くれそうにないじゃん」


空は少し厚い雲がかかっていた。

藤ヶ谷は何が欲しいの？
俺は藤ヶ谷が欲しい。

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