昨日の約束

28 F ページ28

「ガヤ･･･？早く」

中々、北山をタマの背中に乗せないオレに痺れをきらしたタマがこちらを睨んでくる。


「もういいわ。健永、手伝って」
「あ、ああ」


それでも離さないオレに嫌気がさしたのだろう。反対側にいた健永に声をかける。その声色は苛立っていて。それでも、無理矢理北山を引っ張ったりしないのはコイツを起こさないためで。その優しさこそがタマのコイツへの愛なんだと思い知らされる。

例え、北山が･･･宏光が。
玉森のお姫様でも。
オレにとっての姫も。
･･･コイツだけだから。


"藤ヶ谷！俺らさ？ずっと一緒にいような。藤ヶ谷についていけるように勉強頑張るからさ。置いてくなよ。高校も、大学も"


何も知らない宏光が言った、中一の初詣。


"ずっと藤ヶ谷といれますようにって神様にお願いしといたから"


そう笑って、かじかむ手に息を吐き温めてる宏光が何よりも誰よりも愛しかった。


その約束を守ってやれないことを、その時のオレはもう知っていた。でも、言い出せなかった。
オレは卑怯だ。お前の悲しい表情が見たくなくて。逆に平気そうにされたらどうしようという恐怖もあって。言い出せなかった。


日本にはいつ帰ってこれるか分からない。と告げた両親。家族はいつも一緒だという父親の理念に中坊のオレなんかが抵抗しても意味がなくて。自宅も売りに出した。その時、ああ本当に帰ってこれないんだと、失望した。


やっと、父親の許しがでて
日本に帰ってこれることになった日は本当に嬉しかった。宏光に逢いたい、ただその想いで。


･･･あの約束、覚えてる？


「･･･ごめん。玉森。お前に、宏光は渡せない」


自分でも驚く程に低い声が出る。
そんなオレの声に反応した玉森は身体ごと振り返った。

「は？自分が何言ってんのか分かってんの？」
「分かってる。オレは北山が好きだ」
「あの女は？チャラチャラしやがって。再会した日だって気付かなかったくせに」
「あれは･･･！」
「あー違うか。気付かなかったフリをしたんだっけ？」
「･･･！」
「初めからそう言えばいいのに。おせーよ」
「初めからって…」
「初めからちゃんと迎えに来たって言ってくれればオレだってこんなにキレなかったんだけど」
「･･･タマ？」
「チャラチャラチャラチャラ変な女としやがって。本当に見る目ないな。ミツを傷つける奴は許さない」
「･･･それは、その....」


急に玉森の瞳が優しくなり、口元は弧を描いている。なんでだ？頭が混乱する。

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