昨日の約束

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藤ヶ谷の部屋に久しぶりに入った。
特にどこも変わっていない。
いやに立派なエアコンと小さなテレビ。
それに簡単なソファーに簡易的なマットレス。


「で、誘いたいことって？」


ソファーに座る俺。
マットレスに座る藤ヶ谷。


先程のキスはまるで嘘かのように。
夢かのように。何でもない空気。


「･･･二階堂って覚えてる？」
「あー、高嗣？」
「そう。千賀って覚えてる？」
「･･･健永？」
「そう。すげーちゃんと覚えてる」
「まだ5年しか経ってねーから。んで？」


あの約束は忘れたくせに。


「あぁ･･･。二階堂は同じ大学なんだけどね」
「あー、やっぱり？何かめっちゃ似てるヤツにガン見された気がする」
「多分、それ二階堂。でさ、玉森も合わせて5人でメシでもどうって二階堂が。」
「･･･タマはいいって言ってんの？」
「うん」
「ふーん。オレも皆に会いたいかも。でも、ひとつだけ条件がある」
「･･･なに？」


マットレスの上に座っていた藤ヶ谷が立ち上がり、小さなソファーに座る。
隣りに来た。狭いから近い。


「そのメシの時、おまえはオレの隣りに座ること」
「へ？」
「タマの隣で座ってんのをずっと見るのは耐えられねーから」
「･･･藤ヶ谷？」


また、藤ヶ谷が近くなる。
藤ヶ谷を覗くように見つめると藤ヶ谷の手が頬に触れる。


「あの夜、玉森の家に行ったのか？」
「･･････、」
「おまえは･･･もうアイツに抱かれた…？」


抱かれるわけない。
キスだって、さっきのキスが初めてで。


玉森は･･･手を出してこなかった。


その問に首を振ることしかできない。
藤ヶ谷はきっと、誰かを抱いているのに。
俺は誰も知らない。


「･･･キスだって。俺はさっきのが初めてだった」
「え？」


恐る恐る藤ヶ谷の顔を見ると、
引いた表情。初めてだなんて、重いよな。
もう19歳。今年で20歳になるのに。


自分でも、そう思う。


そんな表情を見たくなかった。
悔しくて。
そのまま藤ヶ谷を突き飛ばし、部屋を猛ダッシュで出た。



「･･･マジか」


藤ヶ谷が真っ赤な顔をしていたのも知らずに。



部屋に戻った俺は、玄関のドアに背中を預けてそのまましゃがみこむ。
唇に手を当てて。思い出していた。
ファーストキス。
味なんてしなかった。


でも、


「好きだよ、ちくしょー」


好きだと言う気持ちだけフツフツと湧き上がり再認識してしまった。


チャラい藤ヶ谷。
それでも、好きだ。
どうしようもなく。

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