昨日の約束

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「ねー、今日ミツんち泊まりたい。」
「今日ラストじゃなかったし、まだ電車あるじゃん。」
「じゃあさ。タクシーで帰るから、少しだけミツんち行きたい。ゲームしよ。ゲーム。」
「･･･わーったよ。」


バイト帰り稀に玉森は泊まりにくる。
いくつか玉森の着替えも置かれてるぐらい。玉森は実家通学。自由がほしいことは、分かるけど。一人暮らしを勧めても金がないと言う。いや。俺より絶対あるし、俺ができるなら絶対できると思うんだけど…と言っても首を傾げるからもう勧めていない。


「絶対、帰れよ？」
「はーい」


そう念を押しても笑う玉森。本当にわかってる？
アパートが見えてきて。
階段を上っていく、また玉森が後ろから押してくる。だから、この階段、怖いんだって。


玉森の手を振り払うと、小さな話し声が前方から聞こえてきた。嫌な予感がする。このアパートは、壁は薄いけど殆ど学生だから、多少の夜遊びはみんな許容してる。
少しうるさいな、と思う日もあるけど逆に自分も連れが来ることがあるから･･･と上手く回っていた。


誰かが、きっといるのだろう。


でも、その誰かに俺は傷つくこととなる。


「今日はありがとね。藤ヶ谷くん」
「いーえ。こちらこそ」


その声の主が誰かだなんて、分かるからだ。


「ちょ、タマ！降りろ！」
「え？」


廊下から曲がってきたその声の主に階段で鉢合わせをしてしまった。逃げることも、間に合わず。
玉森に降りろと指示するために玉森の腕を掴んだ自分の手が虚しかった。


「あ、ガヤ」


俺より先に俺の先にいる藤ヶ谷の名前を呼ぶ玉森。
恐る恐る俺も前を向くと。


廊下の灯りで照らされている二人がいた。
藤ヶ谷が俺の前で声をかけていた女の子と
藤ヶ谷だった。二人の距離は近い。


「藤ヶ谷くんのお知り合いですか？」


なんて可愛く素敵な女性だろう。
髪の毛も長くて、前髪も綺麗に流れてる。
整った容姿。輝く笑顔。


「ガヤの友だちでーす」


その女性に答えたのは、玉森だった。
玉森がいて良かった。
一人だったら、答えられなかったかもしれない。


「いいから、行こう。」


藤ヶ谷は俺ら二人なんてまるで見えていないかのように、彼女の肩を抱いて、進むように促した。
藤ヶ谷に続いて、そんな彼女もすれ違い際に会釈をし階段を降りていく。


･･･今日初めて会った訳じゃないの？
もしかして、その子の家にずっといたの？
見えなくなっていく二人。
状況は分からないのに涙だけが頬を伝っていた。

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