「来てるねぇ…」 ページ6
「な、なんだこれ！お前、何したんだ！」
「黙ってくれる？微調整が面倒なんだ、動きすぎると落ちるよ」
バタバタと騒ぐ男性を黙らせる。下に視線をやると、さっきのヒーローがインカムに向かって叫んでいるのが見えた。
空を飛ぶか僕の個性を解除する以外に僕の邪魔は出来ないだろうし、このまま逃げるか。
「君、走るのは得意かい？」
「は？何を……」
「ヴィランやってんだから運動音痴とは言わないでくれよ？僕を持って走って逃げよう」
「走って！？浮かんでんだぞ！」
「足場は上さ」
人差し指を伸ばすと、男性は奇天烈なものでも見るように僕を見つめた。
「さあ早く！捕まりたくないだろう？」
少し煽ると、意を決したらしいヴィランは僕を抱えた。本当に大丈夫なんだろうな、と聞くから、自分で確かめなよと返す。体を捻って地面に対して逆さまになる。男性は反射で目を閉じたが、すぐに自分の様子に気がついたらしい。
「立ってる……」
「体を逆さにした事で、僕らにとっての地面が空になった訳だ。ただ、君が僕を離せば君だけ真っ逆さまだから気をつけなよ？」
「…奇妙なガキだ……」
「よく言われる」
不本意だが……なんて言葉が聞こえてきそうな表情を横から眺めながら個性の微調整に集中する。俵担ぎは頂けないが、これ以上何か言ったら文句が飛んできそうだからやめておこう。
走り出した男性。おぉ、案外速いな。
「お前、なんでこんな事してんだ。噂は聞いてたが……ヴィランなんか助けて」
「なんでって言われてもなぁ〜、面白いからとしか言えないね」
「まともに育ってこなかったらしいな」
皮肉るように笑った男性に僕も笑う。
「まともに育ってたらここに居ないよ」
「違いねぇな」
そのまましばらく空を走り続けていると、ある異変に気がついた。地上で僕らを追う人間が居ない……いや、正確には見えない。ヒーローや警察がみすみす逃すはずがないのに、空から見てる僕すら見つけられないとすると……僕からは見えない所で僕らを追ってきているのか。
中々隠密行動に長けた人間じゃないか。ヒーローにあんまり興味が無いから、それに該当するのが誰かは分からないけど。
でも、追ってくるって事は、捕まえる算段があるって事だ。
「おい！誰か来てんのか！」
「来てるねぇ…誰かは知らんけど」
その時、僕の意思関係なく個性が解除され、男性と共に宙に投げ出された。
そして、白い布が迫る。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
