「体調不良で休むと今朝連絡があった」 ページ43
「全員バスに乗って移動開始」
今日は救助訓練。USJを使って、本番を想定した訓練をやってもらう事になっていた。施設には13号が待機していて、オールマイトさんと3人で受け持つ。浮足立つ生徒らに喝を入れるつもりで居た。
が、
「先生、朝から逆くんの姿が見えませんが。休みですか？」
飯田が律儀に手を挙げる。委員長となってクラスメイトをまとめる仕事に責任を持つのは分かるが、今回に限っては触れてほしくなかった。
「…体調不良で休むと今朝連絡があった」
「分かりました。みんな！着替えて外に集合だ！」
あの夜、緊急で要請が入って家を出た。そこまで手こずるような事件でもなかったから、ヴィランを追いながら家の電気を点けっ放しだったと考える余裕はあった。
しかし、考えてみれば俺は、時間の経過と共に甘さを膨らませていたのかもしれないと気づいた。
日付が変わってから家に帰ってみれば、あいつは居なかった。
顔を見れば、そいつがどういう人間かは大体察しがつく。あいつは徹底した利己主義者、自分の利益のためなら手段を厭わない。人間も社会も、自分に何を与えてくれるかでしか見ていなかった。あいつにとっちゃ、俺は中々に優良物件だっただろう。だから、そう簡単には出ていかない事も分かっていた。実際一年間一緒に暮らしてみてそれは確信になった。
だが所詮他人。俺はあいつの肉親ではない。衣食住を提供し、まともの生活を送らせ、あわよくば更生をと望む1人のヒーローに過ぎない。
戦闘訓練以降、どこかあいつの本心が見え隠れするようになったのには気づいていた。道を踏み外すほど非情になるくせに、幼児のような感情も持ち合わせている。
あの時「見放さない」と言ったのは、ユキがそれを望んでいるように思えたからだった。哀れまれたくないという言葉の裏に、懇願が見えた気がした。
僕を諦めないで。僕を見て。
それは、あいつですら気づいていない本心だったのかもしれない。俺が言っても否定されて終わりだったからあえて言わなかった。もしあれが確たる願いだったのなら、応えてやりたいとも思った。
"あべこべ君"となったあいつがどこに行ったのかは分からない。ただ、微かに蠢く嫌な予感が当たらない事を、らしくもなく祈った。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
