「なるとは言ってない」 ページ39
僕のような容姿の人間には毛ほども似合わない扉を開けると、レトロな雰囲気……いや悪意のみが蔓延った空気が僕を迎え入れた。
「お待ちしていましたよ」
まるで僕が来る事は初めから分かっていたかのように、モヤは僕をカウンター席に促した。僕は何も言わず高い椅子に腰掛け、黒いパーカーのポケットからお面を取り出した。
「証拠……ですか」
「馬鹿言うなよ。これを付けてると安心するだけさ」
お面を被りながら話す。モヤは、何か飲むかと聞いてきた。別に喉は渇いてなかったけど、とりあえず水が欲しいと僕は答えた。と同時に、隣の席に誰かが座る。言わずもがな……
「だから同じだって言ったんだ」
「その手ってモノホン？」
「どうだっていい。そんな事より、ここに来たって事は俺の仲間になるって答えでいいんだな？」
「なるとは言ってない。残念ながら僕は、君の言葉には何一つとして魅力を感じなかったからねぇ〜……でも今日ここに来たのは、君の部下の言葉に惹かれたからだよ」
俗に言うナンパのようにモヤに向かって名前を聞くと、落ち着いた声で「黒霧と呼んでください」と返してきた。
「おいおい俺には興味無しかよ」
「こんなに優秀な奴が君の下についている事に関しては興味がある」
コトリと置かれたグラスを眺める。水面が店内の明かりを妖しく反射していた。視界に入る死人のような手が鬱陶しいが、ここは僕のテリトリーじゃないため黙っておこう。この癖毛の彼は僕とは違って少々煽られやすいタチなようだ。
「君にそれだけの技量があるようには見えなかった。計画性も無ければ人望も無さそうだ。1年A組のカリキュラムを盗み出したのは君の案ではなく黒霧くんか、もしくは別の誰かの作戦だったのかな？……と、あの後僕は考えた訳さ」
「……死柄木弔、落ち着いてください」
バリバリと皮膚を掻きむしる音が隣から聞こえてくる。ふーむ言い過ぎかなぁー気にしてないけどー。どーせ子供がそのまま大人になったようなもんだろう。名探偵であれば多少は期待出来たかもしれないけどね。
《面白い子だ》
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
