「…何してる」 ページ32
「相澤くん、これ今日の」
「どうも。帰って観ます」
「うん。……うん」
「…何です。他に用事があるならさっさと言ってください、合理性に欠ける」
背後に立つオールマイトさんを振り返る。丁度区切りがついたところだ、これを聞いたら帰ろう。
「逆少年の事だけどね」
「あいつがどうかしましたか」
「……いや……すまない、やはり私からは言えない。それを観てくれたら分かると思う」
事情は知っているだろうに、何を言い淀む事があるんだと若干不思議に思いながらも会話を切り上げ、帰路につく。
何か問題を起こし。それが解決していないなら、担任であり保護観察する立場にある俺に隠す謂れは無い。あの人の中で単なる懸念点なのか、それとも言えない理由でもあるのか……
その答えは家のドアを開けても分からなかった。代わりに、いつもは電気が点いているはずの暗がりに疑問を覚えた。
「…何してる」
リビングに入ると窓は開いていて、ベランダの笠木に腰を下ろしているユキが見えた。
「気にしなくていいよ」
「なら降りろ。落ちたらどうする」
「さ〜ね」
夜空に目を向けるそいつに、今までとは違う何かを感じた。独特な雰囲気、凡そ子供が出すもんじゃないとは思ったが。
今にも夜空に身を投げ出しそうな、根拠のない静かな衝動が俺に向けられた気がした。俺が近寄る事を拒むように。何かを、恐れるように。
「ショータもさ、僕がイカれてると思うだろう？」
「は？」
「今日の戦闘訓練だよ。僕は勝とうとした。だけど、僕のやり方は彼らにはそぐわなかったらしい。卑怯だとか陰湿だったのかな〜って思ったけど、違ってた。
僕は根本的に間違ってるんだって」
特に悲しみは読み取れなかった。逆に言えば、本を音読するように、感情は込められていなかったとも言える。
「僕はね、別に僕を否定されたっていいんだよ？誰が何と言おうと、僕はどうとも思わない。だってそいつらなんかに僕を決められるはずがないって知ってるから。
でもね〜、ムカつく事が無いわけじゃないんだ。哀れまれるのは……もう懲り懲りなんだよ」
"もう"……
「……ユキ。こっち来い。今日の試合の録画だ」
俺はとりあえず、USBをそいつに見せた。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
