「何があったのかな」 ページ3
東北ではもう雪が降り始めたらしいこの時期、薄手の長袖にコート1枚では流石に寒い。個性を使って寒さを温かさに変えてみた。
「はぁ〜ホカホカ……」
急に顔を弛めた僕を、すれ違う人達が不思議そうに見ていく。まぁ秩序って型にはまってる世間だし、個性を使ったとは思われないだろう。何か良い事があったんだなーくらいにしておいてほしい。
さてそろそろ着くはずなんだが……
「消防は！？」
「ヒーローはまだか！」
「離れろ！崩れるぞ！！」
……ま、遠くから煙が見えた時点で何となく察してはいたけどさ。まさかドンピシャとはね。
「何があったのかな？」
1人呟くと、燃え盛る店にスマホを向けたまま女性が振り返った。
「あの理容室にヴィランが入ったんですって。なんでも、店主に恨みがあったとかで店に火をつけたって……怖いわねぇ」
「全くだねー」
せっかく髪を切ろうと思ってたのに……本当に残念だ。
もう少し近くで見てみようと思って、人混みを掻き分けて進もうとした。……が、足を止めた。
「なんで、店主に恨みがあったって分かるんだい？お姉さん」
そそくさと立ち去ろうとしている女性は、顔を強張らせて僕に振り向いた。……完っ全にやらかし顔だね。滑稽だァ。
「おい！火が消えたぞ…！？」
「なんで急に……」
「…なるほどねぇ〜、そのスマホかな？火をつけていたのは」
少し声を張ると、周りの視線が集中する。女性は醜く顔を歪めて、逃げ出した。
「いやいや…君さ、バカなの？」
辺りがざわつき始め、僕は指を鳴らす。すると女性は小さく声を漏らして転んだ。怯えた顔で自身の足を見つめ、それから思い出したようにスマホを取り出し、僕に向けた。
「死ねっ！」
「死なないよ」
攻撃を待つけど、いつまで経っても僕に変化はない。人混みを見渡すと、髪を逆立てた男性がこちらに近づいてきた。ヒーローかな……面倒だ、本当はここまで目立つつもり無かったんだけど……
「全員そのままでお願いします」
首元の布を引っ張りながら男性は言う。個性を使えない事に動揺した女性を瞬く間に拘束してしまった。安全が確認できた事で周りの野次馬も離れていく。面倒事は御免だから僕も便乗するが……
「そこの」
「どこで切ろう……」
「君だ」
なるべく自然に動いたつもりなんだけど、僕とした事が肩を触られてしまった。
「何だい？予定があるから行きたいんだけど」
「彼女の脚を治せ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 172人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
