No.138 ページ38
「……目黒はね。
Aちゃんが傷つくことを恐れて、
俺が何をしたのか言ってないんや。
かなりの彼女思いだよね」
茶化すように言った言葉は妙に冷たさを感じて、
一瞬違和感をおぼえた。
「康二くんは……
川波さんと、付き合ってた、の？
二股とか……」
その発想がおかしかったらしく康二くんは噴き出す。
「まさか。
俺が仕組んだのはもっとシンプルなことや。
――Aちゃんと目黒を、
『引き離す』こと」
「――それは……どうして」
分かりきってるでしょ、と康二くんは笑う。
「俺が、
Aちゃんを好きやったから」
川波のことは知らないけど、
協力するって言ってくれたから、と康二くんは言う。
張り付けたような笑みを終始浮かべたまま。
黙り込んだ私を取り残して、康二くんは続ける。
「……最初から全部、俺の我が儘やったんよね。
好きな人が他のやつを見てるからって、
他人を利用して引き離すなんてクズやろ？
……ましてや仮にも川波は俺を好きやったし」
「川波さんが……？
待って、康二くん。
それなら、どうして川波さんは――」
「言ったやろ？
川波が目黒と付き合ったのは君たち二人を引き離すためやで。
あわよくば、ってやつやな。
まあ失敗するのは目に見えてたんやけど」
ちらりと康二くんは私の顔を窺う。
「……知らなかったって顔やね。
そうだね、言ってへんから。
……言う気もなかったし。
きっと、このことも知らないんやろうな――。
もしかしたら目黒も気づいてないかも。
これって、当事者やから気付いたことやろうし」
「どういう意味……？」
「知りたい？
……じゃあキスしてくれたら教えようかな」
「ん？…………ぅえ!?」
数秒考えてまばたきを繰り返してから、
意味を理解した途端、ざっと後ろに退いた。
壁を盾に顔を出す。
その様子を見た康二くんは小さく吹き出してから笑う。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
