No.133 ページ33
ぎろ、と渡辺くんを見て目黒くんが口を開く。
「……人の彼女に触らないでくれる、浮気男」
「ち、違っ!?
え、浮気に入るの、これ!?」
「当たり前」
湊ちゃんが腕組みをして渡辺くんを睨む。
「いやいやいや！俺浮気なんて……」
狼狽する渡辺くんに目黒くんはにっこりと笑った。
「お詫びに何か奢ってよ」
「お前、絶対それが目当てだろっ！」
「はは、まさか」
「……なんかお似合いだね」
ぼそっと呟いた言葉はちゃんと聞かれていたらしい。
目黒くんの顔がこっちに向いた。
「……木ノ下さーん？
今なんて言った？」
「い、いえ……」
グッジョブと親指を立てる渡辺くんはそそくさと店から出ようとしている。
「渡辺はそこで待っててね？」
「……ひっ」
私は数歩ずつ退く。
反対に目黒くんは笑顔のままゆっくりと近付く。
「大丈夫だよ、木ノ下さん。
手荒なことはしないから」
余計それが怖いんだけど、と私はさらに後ろに下がる。
そのうちに壁にぶつかった。
「……め、目黒くん……？」
じりじりと近付く目黒くんに、私は顔を青くした。
横からは渡辺くんののんきな声が何かを言っている。
「……あれ、目黒。
メール来てるぞ？」
「ちょっと翔太……
他人の携帯勝手に――」
渡辺くんがそれを見て動きを止める。
「……翔太？」
「――目黒！」
「……なに、渡辺」
また邪魔かよ、と目黒くんがうんざりする。
「……ちょっと来い」
渡辺くんは目黒くんに携帯を見せた。
直後、目黒くんの目が驚愕に見開かれる。
「……な、」
「……数分前に、受信されてた」
「――どうして、……」
……目黒くん？
「……さあな」
目黒くんは私の方に向き直る。
その表情からはどうしようもなく深い悲しみが表れていて、
――私が、聞いてもいいことなのか
……躊躇う。
「ごめん木ノ下さん。
今日は……一人で、帰りたい」
「……分かった」
……言ってくれないんだね。
そう思ったら、ちくりと胸が痛んだ。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
