No.119 ページ19
そう言ったのは、今からそう遠くない前だ。
「……木ノ下さん？」
ようやく端で小さくなって震えている木ノ下さんを
見つけた。
「……目黒、くん？」
俯かせていた頭を上げて木ノ下さんは俺を見る。
その目は潤んでいて涙目だ。
「――出よう」
手を引いて立ち上がらせようとすると肩が強張った。
「――あ、……」
木ノ下さんはばつが悪そうな顔をした。
ふるふると首を振る。
「……目黒くん。
もうこういうことしない方がいいと思う。
私は一度振られてるから
諦め……つけなきゃいけないのに、
こういうことされると、
……すごく、困る」
そう言って、目を逸らした。
「……ごめん。
だめだね。
目黒くんは悪くないのに。
――私の整理がつかないだけだから。
だからお願い、一人にして……」
ぼんやりと拒絶された手を眺める。
まあ正直予想できないことでもなかった。
でも、まさか今とはね。
さっきの木ノ下さんの顔がフラッシュバックのように
何度も頭に思い出される。
……あの涙は、
たぶん怖さのせいじゃない。
とりあえず何かあったんだろう。
それで、
俺から離れた方がいいってことになった……気が。
ふーっとため息をつく。
「……どうしようか」
ふと声に出していた。
そして自分が、
木ノ下さんが離れないように説得することを考えてるのに気がついて笑いが漏れた。
……渡辺が言ったこと、
認めてやってもいいかもしれない。
俺に変化をもたらしたのは、
間違いなく木ノ下さんなのだから。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
