悪意のない暴挙 ページ10
そんなことを考えながらAを見ていると、彼女は突然、記録用紙に記録を書き込んでいるリヴァイの前髪を持ち上げた。
バインダーを覗き込んでいるリヴァイの前髪は、下向きに垂れ下がっていた。
それを彼女は片方の手のひらでザッと持ち上げたのだ。
｢これは危ういぞ…｣
私は、彼女が今までに幾度となく食らってきたリヴァイからの張り手をハイライトのように思い返していた。
記憶に新しいのは、リヴァイが木の上を立体機動で素早く動くのをリスのようだと形容して食らった張り手だった。
また新たなハイライトが生まれそうだ。
｢なんだ。書きにくい｣
｢リヴァイ、前髪邪魔そう｣
｢…あ？｣
｢前髪、邪魔そう｣
｢聞こえてねぇわけねぇだろ。お前と違って俺は耳がいいんだ｣
｢良いものあげる｣
｢要らねぇ｣
｢そんなこと言うなって。きっと役に立つよ｣
Aはそう言うと、マントの内側をゴソゴソと漁って、小さなブローチのようなものを2つ取り出した。
白い花びらの、親指と人差し指で作った円より少し小さめの造花が付いている。
これは確実に張り手案件だ。
今のうちに止めようかとも思ったが、これが彼らの日常なので止めるのも無粋かと留まった。
｢ほら、見えやすいでしょ｣
Aはリヴァイの前髪をその2つのアクセサリーで留めた。
ヘアアクセサリーだったらしい。
リヴァイは黙って俯き、微動だにしない。
それがこちらの緊張を誘った。
｢これ元はペアブローチだったんだよ。でも、前からリヴァイの前髪が邪魔そうで気になってたから丁度いいやと思って、買う時にヘアピンに飾りをつけ直して貰ったんだ｣
Aは、リヴァイの目の前でにこやかにそう語る。
張り手圏内。
いつそれが繰り出されるのかと、私含め全員が作業を中断して彼女らを凝視していた。
ついに、リヴァイが口を開く。
｢…あぁ。確かに、見やすい｣
見ていた全員がギョッとした。
怒りを抑えているのか…？
｢ハンジさん何ですかアレは…異常事態ですよ…｣
私の所までジリジリと移動して来ていたモブリットが言う。
｢あぁ…普段ならもう2、3発は張り手が入ってるな…｣
｢もしかして今回は、ついに拳が入るのかもしれませんね…｣
｢いや、殴ることはしないよ。一応レディだと弁えているらしいからね｣
｢レディに張り手はするんだ…｣
モブリットが呆れたような声を上げた。
この呆れは、張り手を食らっても自分の悪意のない暴挙に全くもって気が付かないAに対しての呆れだった。
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
