何とも健気 ページ31
｢お姉さん、調査兵団の人よね｣
久しぶりの完全非番の日の夜。
たまには1人で飲みたくなるもので、酒場の片隅でグラスを傾けていると、カウンターの中から店員の女性に声をかけられた。
ウェーブのかかった長い金髪が店内の黄色い灯りに照らされて、より黄色く見える。
見た瞬間、直属の部下であるアリスに顔が似ているように思った。
テンポの早い曲がそこそこの音量で流れている店内でも、その女性の少し高い声はよく通っていた。
｢うん、そうだよ｣
｢やっぱり！見たことあると思ってたの！｣
私が出してもらったカクテルを飲みながら答えると、その人は嬉しそうにカウンターから身を軽く乗り出す。
｢危ないよ。瓶を落としそう｣
｢ちょっと聞きたいことがあって｣
｢聞きたいこと？｣
｢ええ｣
｢んー…公開できないものもあるけど、答えられるものなら答えるよ｣
｢……兵長の事って、機密…？｣
｢え？兵長？｣
私がそう聞き返すと、その女性は顔をうっすら赤くして照れた様子で、細い肩をしゅんと下げた。
は〜…そういう事ねぇ…
リヴァイも隅に置けないなぁ。
兵団内でも尊敬されているし、恋情を抱いている者も居なくはないと思うが、意外と一般市民からの人気の方があるのかもしれない。
｢…個人情報だからなぁ｣
｢ダメかしら…｣
｢プロフィールの話なら出来るかもしれないね。例えば…女の子の好みとか｣
｢もー…からかわないでよ｣
｢あはは、やっぱりそうなんだ｣
｢お願い！本当に些細な事でいいの！｣
女性店員はそう言って、私の目の前に酒のボトルをドンッと置いた。
私は追加注文はまだしていないが、酒のサービスをするからリヴァイの事を少しでも教えてくれという事だろう。
にしても中々上等な酒を持ってきたものだ。
もし私がこれを飲んだら自分の稼ぎから天引きされると言うのに、ここまでして意中の人について少しでも知りたいなんて、恋する乙女というのは何とも健気だ。
｢そうだね…とりあえず、リヴァ……兵長は、お酒が得意だよ。あの人はずっと飲める人｣
｢へぇ！ザルなのね｣
私がリヴァイの事を話すと、彼女は嬉しそうに顔を上げて、ボトルを手に取る。
｢追加注文いい？そのボトルちょうだい｣
｢え！？悪いわよこんな高いの｣
｢前から飲みたかったやつだから｣
｢すごいお人好しね…｣
｢酒好きなだけだよ｣
私が言うと、その人は恥ずかしそうに笑った。
表情は全く似ていないが、女性のその顔つきが、無表情なアリスとまた重なった。
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
