分隊長の手の内は (ページ30)

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腫れない程度にしてやるページ30

｢あー、疲れた！やっと終わったね｣
｢何言ってやがる。ここからが本番だろ｣
｢わかってるよリヴァイ…調査報告でしょ？やだなぁ｣
｢何が嫌なんだ。あった事を正確に書けば終わる｣
｢私、何故かエルヴィンにすごい厳しく確認されるんだよ…｣
｢お前の隊は損失が少ねぇからな。毎回アイツ、お前の報告書を見て『本当にこれで合ってるか？』なんて言ってやがる｣
｢あれそういう事だったの！？嘘書かないってのに…｣

馬を厩舎に戻した兵長とA分隊長が本部の作業室に向かって歩いていくのに着いて、俺たちも第5分隊長室へ向かった。

｢…何でここまで着いてくるのさ、リヴァイ｣

第5分隊長室に当たり前に入り、Aさんの席の隣にある長椅子の上を陣取った兵長を見て、Aさんは不機嫌そうに呟く。

｢俺がここに居た方が、お前の作業は捗るようだからな｣
｢そりゃ隣にマフィアみたいな顔した監視の目があったらね…｣
｢あ？誰がマフィア顔だマヌケ顔｣
｢うるさいギャング顔｣
｢口じゃなくて手動かせアホ｣
｢どう考えたってリヴァイのせいなんだが！？｣
｢ピーピー騒ぐんじゃねぇ雛鳥か｣
｢君の方がサイズは雛鳥｣
｢よし、殺す｣
｢ダメダメダメ冗談にならないよリヴァイ待ってその拳を下ろして｣
｢振り下ろせと？｣
｢安全にゆっくり下ろして！｣

兵長と分隊長の会話は、部屋に入って10秒足らずでいつも通りの口喧嘩に発展した。
報告書の作業を始める前にAさんに話を聞こうと思っていたのに、これでは完全にタイミングが無い。

｢ナル…聞けないんだけど…｣
｢…まぁ、喧嘩が終わったら聞けばいいよ。すぐに終わるでしょ。多分…｣

ナルはそう言って2人を見てから、遠い目をした。
彼女はいつもあの2人に(主にAさんに)振り回されているため、もうこういった事には慣れたように見えていたが、未だにどうしたらいいかわからないらしい。

｢暴れるな。腫れない程度にしてやるから｣
｢殴る気だコイツ！ナル助けて！！｣
｢私を巻き込まないでください｣
｢見捨てないでナル！｣
｢兵長、顔じゃなければ全然どこでもいいと思います｣
｢何で殴る場所のアドバイスしてんの！？｣

ナルが鎮火してくれるのかと思ったら何故か火に油を注いでいて、兵長たちの口喧嘩は喧嘩に発展しそうになっていた。

｢…一生聞けないかも……｣

今はとりあえず諦めよう。
そう思って、窓の外に目線をやる。
大きなとんびが晴天の空を悠々と旋回していた。