分隊長の手の内は (ページ28)

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真意と意向ページ28

｢じゃあ行こうか。第4分隊の後ろに着いて帰るよ｣

A分隊長はそう言うと、ゆっくりと馬を進め始めた。
斜め後ろから眺める彼女の歩みは、壁外とは思えないほどにのんびりしていた。
まるで散歩を楽しむようなペースだ。
分隊長は第4分隊の最後尾から少しずつ遠ざかり、自身の分隊の後方へ下がっていく。

｢分隊長！？ペース上げてください！｣
｢ランス、あれがあの人のスタイルなんだ。後方の安全を管理して、俺たちを守ってくれてんだよ。気にせず任せとけ｣

俺の馬に近づいて来て言ったのは、この壁外調査でA分隊長のサポート役をしていた先輩だった。
確かに、分隊長は一定のペースを維持しながら第5分隊の最後尾に居た。
後方を見て、巨人の接近が無いかを確認しながら進んでいる。

｢危険にさらす勇気がない…か……｣

彼女の言葉は兵士にしては甘いようにも思えたが、当たり前に失ってはいけない感覚なはずだ。
『心臓を捧げよ』という言葉から一番遠い。
調査兵団の幹部でありながら、その新鮮な感情を失っていないというのは、考えれば考えるほど凄いことに思えてくる。

『私が分隊に引き入れたのは、冷静に全体が見渡せるランスだ』

激励とも捉えられる言葉だった。
冷静に全体を見渡すという行為を、A分隊長は今、手本のように見せてくれてるようにも思えた。

｢何考えてんのかよくわかんねぇ人だけど、俺たちの安全を一番に思ってるのだけは確かだよ。お前も、ここに居るなら全力で身を預けた方がいい。少しでも長生きしたいならな｣

先輩はそう言って、ペースを速めて俺の馬を追い越す。
確かに何を考えているのかわからなくて、逆に言えば何も考えていなさそうでもある。
振り返ると、分隊長とちょうど目が合った。

｢ランス、冷静で居るって難しいでしょ｣
｢え、は、はい｣
｢皆、いつかは冷静にならざるを得ない。人の死を見て、自分の死を身近に感じて、いつかは安全を得るプロセスを経験値からすぐに見い出せるようになる。それが、傍から見たら冷静に見える。君はまだ新兵だから、今は貴重な冷静でない、熱い時間を謳歌しても良いんじゃないかな｣

その言葉の真意はハッキリとはわからなかったが、分隊長の意向は理解出来た。
彼女は新兵の未熟さを肯定も否定もせずに、ただ生きることだけを教える。
その意向が少し兵長に似ているような気がして、能天気に見える分隊長の顔と訓練時の厳しい兵長の顔が、何故か重なった。