分隊長の手の内は (ページ27)

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現実的なページ27

｢点呼は終わったか｣
｢うん。報告の限り、死者は7人｣
｢…上出来だ｣
｢うん｣

同期を失った。
何が上出来だろう。
俺は…何を安堵しているのだろう。

目の前で話している上司の顔は普段通りで、今回の調査での｢損失｣について話している。
同期は生きていた。生きていたから死んだ。
血の通った人間だった。
それが損失の一言で終わらせられるのはあんまりで、俺は気がついたら上司の方へ足を進めていた。

｢A分隊長｣
｢ん？君は…新兵か。確かランスって｣
｢何で死体を回収しないんですか｣

上司の言葉に被せるように、口をついて出た。
俺がそう言うと、分隊長と話していた兵長は口を噤み、分隊長の肩をポンと押して団長の元へ向かっていった。
分隊長は驚いたように固まり、俺の方へゆっくり向き直る。

｢私は安全を優先した。あの周りには巨人が多すぎた。1人につき1人回収したとして、動きが遅くなって全滅が関の山｣
｢っ……せめて、一部だけでも持って帰れなかったんでしょうか｣
｢出来たかもしれない。あれは私の判断だから｣
｢なら1人でも多く回収に…！｣
｢ダメだよ｣
｢何故ですか！ガスも刃も補給した！今なら数名は連れて帰れるはずです！｣
｢…君は勇気があるね｣

分隊長はそう言うと、目を合わせて笑った。
あまりに快活で、恐ろしいくらいだった。

｢ぶ、分隊長…？｣
｢いいよ、回収しておいで！｣
｢…え？｣
｢志が高くて大変良い。自分の命だけでなく友情まで守ろうとするのは凄い｣
｢じゃあ…｣
｢行ってきな。私たちは先に壁に戻る。皆！すぐに発つよ！｣
｢え？ちょ、分隊長？｣
｢ん？｣
｢あの…俺だけですか？行くの｣
｢え？だって、君の希望だろ｣
｢でも壁外で単独行動は｣
｢無茶だって？｣
｢…はい｣
｢……私はね、君みたいに勇気が無い。壁外でも、腰が引けてるって言われてリヴァイによく背中ぶっ叩かれてた。臆病者だ。だから、君の友人のために分隊員を危険にさらす勇気は無い｣
｢なっ…｣
｢君が1人で行って帰って来れるならそれでいい。君にそれが出来るならね｣

分隊長はそう言って微笑んだ。
当たり前にある実力差故の余裕を、これでもかと見せつけられた気がした。

｢悔しい？｣
｢……はい｣
｢良い事だ！君には、高みを目指してもらわないと困るんでね｣
｢高み…｣
｢しっかりしてよ。私が分隊に引き入れたのは、冷静に全体が見渡せるランスだ｣

暖かいのに現実的な彼女の言葉は、熱かった頭を緩やかに冷やしていった。