初陣の記憶 ページ3
初めて壁外調査に出た時も、私が追い詰められたのはこんな状況だった。
団員16名と、巨人7体が遭遇。
索敵陣形、最左翼。壊滅。
｢うわぁぁあああああ！！！｣
立体機動装置が壊れた。
ワイヤを巻けない。
｢あぁあ！！あぁあああああああ！！！｣
ミシミシと、骨が砕ける音がする。
至る所から悲鳴が聞こえる。
最悪だ。地獄だ。地獄へ来てしまった。まだ若いのに。
自分を客観視しているような、していないような、興奮状態にあるような、冷静なような、なんだかそんな、感じだった。
雨が強く降っていて、頭が割れた仲間の身体はもっと冷たくなっていく。
刃はまだ、折れていない。
ワイヤを巻けなくても、立体機動が出来ないだけだ。
柄はまだ使える。
やるしかない。
｢A……｣
｢バンガー！！｣
同期で新兵のバンガー・コッサムは、巨人の口の前に居た。
柄に付けた刃は、もうナマクラになっている。
飛べなくたって、まだ出来ることが…
｢A…！たす、け……｣
｢バンガー…！すぐ行くから…｣
何の策も無いけれど、とにかく、バンガーの所に…
私は雨の中を走った。
巨人に向かって、真っ直ぐに。
マントは雨でびしょ濡れで、頭が濡れて冷たい。
フードなんて被ってる意味も無かった。
走り出して、巨人と目が合ってから思いついた。
脚の腱を切ればいい。巨人を倒れ込ませてしまえばいい。
そしたら、すぐ…すぐ、バンガーを…
どうする…？
｢くっそ！そこからなんて知るかぁあ！！｣
とにかく腱を切る。
立体機動無しで刃が届く腱はアキレス腱…
アキレス腱を、狙う…！
巨人はバンガーを捕まえている方と逆の手で、私の頭をつかみに来る。
しゃがんで避けた。すぐに次の攻撃は来ない。
いける。届く。
刃が食いこんだ。
ガキンと音がして、刃が止まる。
｢硬ぁっ！｣
ダメだ、モタモタしてたらバンガーも自分も…
｢う、ぉああ！！｣
必死で身を捻った。腕がちぎれそうなくらいに、刃を引く。
｢っあ、あぁあ！！！｣
大きな水音と共に、巨人が水たまりに体を倒した。
すぐに巨人の頭の方へ駆ける。
うなじには刃は届かなくて、必死で指を切り刻む。
｢………A…｣
｢離せっ！バンガーを、離せって、言ってるだろ、この、巨人がっ、くそっ、もー！このナマクラ！！｣
筋肉が切れる音がして、大きな手は、握りしめる力を失った。
｢あ…あぁ……｣
｢バンガー！早くこっちに…｣
プシャァッ
その時、目の前で、バンガーの頭が、飛んだ。
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
