勘弁してくれ ページ19
エルヴィンに連れられて出席した中央政府での会合を終え、調査兵団本部へ戻る帰り道。
彼はまだ他に話をしたい人が居るらしく、私だけ先に戻ることにした。
昼前の街中は活気があって、人混みが得意でない私は、大通りから1本逸れた道を歩いて本部へ向かっていた。
大通りを外れた道には昼間に開いている店は少なく、喧騒は遠い。
もうすぐ本部は昼休みに入る。
少し急いで戻らなければ、昼食をとる時間がなくなってしまう。
足を早めて歩いていると、石畳の道に出店が見えた。
｢姉ちゃん、ちっと見てかんか？｣
前を通ろうとすると、出店から声をかけられた。
布を被った箱の上に包装された商品が並んでいて、古い大きな傘の下に誰かが座っている。
簡素な店だった。
傘の中を覗くと、お爺さんが木箱に座っていた。
｢どうも。いい天気だね｣
｢A分隊長じゃろ｣
｢え、知ってるの？｣
私が驚いて言うと、老人は初めて目を合わせて、柔らかく笑った。
分隊長は兵団内での地位は高いが、私は兵士長や団長ほど有名では無いため、知られているなんて考えたこともなかった。
｢あんたはいつも忙しそうでならん。壁外調査の凱旋も、ずっとソワソワしておる｣
見透かしたような年長者の視線は、相手がお偉方でなくても僅かな緊張を誘う。
｢そんなに見られてたなんて知らなかった。壁外から戻ると、日常が不思議に思えるんだ。どうも据わりが悪くて｣
｢息抜きすると良い。休息のお供でもどうだい？｣
老人はそう言うと、木箱から瓶を取り出して商品の横に置いた。
瓶には縞模様の紙に包まれたキャンディーがいくつも入っている。
｢出店で売るなんて珍しいね｣
｢こんなのもある｣
商品の横のカゴに掛かった布を老人が取ると中からドーナツが出てくる。
｢お！美味しそう！｣
｢買うならいい紙で包むよ。パートナーと食べるといい｣
｢生憎パートナーは居なくてね。いくつか貰うけど、自分で食べるから包まなくていいよ｣
｢なら大切な人と食べるといいさ。何も、そういうパートナーだとは言ってない｣
老人は目を伏せて微笑んだ。
こちらも頬が緩む。
｢じゃあ、これを4つと、キャンディーを15個｣
｢こんなんもあるよ｣
｢商売が上手いなぁ…じゃあそれも4つ。この辺りは別々に包んでくれないかな｣
｢まいど。随分買ってくね｣
｢人のために行動するのが楽しいタチでね。いくら？｣
｢これが合計だ｣
｢げっ、結構するね…ちょっと負けてくれたりしない？｣
｢勘弁してくれ隊長さん｣
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
