引っかからないように ページ17
｢経理の仕事が多すぎると｣
｢…はい｣
冷静に話を聞いて淡々と説教をするように変わっていく兵長の口調を聴きながら、Aさんは徐々に肩をすぼめる。
｢俺たちも書類仕事はしてる｣
｢でも経理じゃないじゃん。こっちは提出手続きも報告も大変なんだって！｣
｢だからって自分だけ逃げようとするな｣
｢ゔっ｣
｢こういうものは罰が必要だ｣
｢え、待って待って｣
｢俺の書類仕事も手伝え｣
｢えー！何でだよ！それはリヴァイの仕事じゃんか！｣
｢罰だって言っただろ｣
｢私の罰が特定の個人の利益になるのは罰としてダメだと思う｣
｢ギャーギャー言ってねぇで終わらせろ。終わったら教えろよ。ここで見てやるから｣
｢何でリヴァイに監視されながらやんなきゃいけないんだよ〜…｣
｢さっさとしろ。副隊長も困ってんだろ｣
兵長はAさんの机の横の長椅子に腰を下ろして、手元の文庫本を開いた。
やけに準備がよかったため、最初からAさんに書類仕事を手伝わせるために来たのかもしれない。
｢オイ、手動かせ｣
｢何この鬼コーチ…｣
｢ふっ｣
ヒーヒーと嫌そうな声を上げながら仕事に取り掛かるAさんを見て、兵長はまた愉快そうに若干口角を上げる。
Aさんと居る時の兵長は心做しか楽しげに見えて、彼女が動揺したり嫌がったりしているのを愉快に見ているように感じた。
変な人に捕まってるなぁと思いながら、Aさんを見る。
明らかに顔色が青い。
そんなに嫌だったんだ…
｢あの人、隊長って感じじゃないんだよね｣
｢あー、まぁ、壁外なら隊長っぽいけど｣
自分の仕事を終えて分隊長室を出た私は、訓練所から戻ってきた同僚のアリスと廊下の窓辺で雑談をしていた。
現在、Aさんが兵長に捕獲されて書類に追われている経緯を説明した後、話題はそのままAさんの話になる。
｢ハンジさんから聞いたんだけど、Aさん、別に座学が苦手な訳じゃなかったらしいよ｣
アリスがいつも通りの調子で言った。
｢そうなの？あんなに書類仕事嫌がってるから座学苦手だったのかと｣
｢得意だったって｣
｢何であんなに嫌がるんだろう｣
｢数字が憎いらしい｣
｢歴史と戦略が得意なタイプか…｣
｢まぁ、書類仕事に関してはアンタがこれからもサポートすればいいでしょ｣
｢そのつもり。多分、私が居なくなったらあの人、書類出来ない｣
｢……これ上司の事だから良いけど、アンタ駄目な男に引っかからないようにしなよ｣
｢何を心配されてんの私は｣
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
