ご愁傷さま ページ16
｢ナル…私はもうダメだ…書類仕事ができる体じゃない…エルヴィンに体調不良だと伝えて…｣
Aさんはそう言うと、机に置いた書類の山の間に滑り込むように伏せる。
先程まで頭上で回していた万年筆はケースにしまい込まれ、机の端に置かれている。
こんな、書類仕事に追われて子供みたいな主張をする姿は、出会ったばかりの頃に私が憧れていた姿とは程遠い。
｢そんなこと言ってないで早く進めてください。ただの支出の計算なんですから｣
｢ただの支出の計算を何時間やってると思ってるのさ｣
｢まだ6時間です｣
｢……ナル、ごめんね…私が働かせすぎたかも…｣
｢正気ですが？｣
Aさんはわざとらしい程に深いため息をつきながら、書類に不備は無いかを確認し始めた。
｢あ、ハンジまた確認印忘れてる！アイツ…｣
後で文句言ってやるなどと呟きながら口を尖らせて、不備のなかった書類をファイリングする。
私は再び、隊の中での資材購入による出費と今月の予算とのすり合わせを始めた。
分隊長室には私と分隊長だけ。
他の隊員は訓練兵たちの訓練に同行している。
Aさんは私のことを何だか信用してくれているらしく、私と作業をしていて疲れている時は特に素が出やすい。
怠けは注意すべきだが、疲れてしまっているのは業務形態に難があるからだ。
しかし書類業務から逃れさせる訳には…
｢あ、ミケも…！経理をなんだと思って…もうやる気ない…｣
｢書類の形式ミスなんていつもの事じゃないですか｣
｢…そうだ…そもそも、この形がおかしいのでは…？なんで第5分隊が経理をやってるんだ…？｣
｢私たちは普段あまり仕事ないですからね。壁外調査ってなったら仕事多いけど｣
｢私たちも訓練とかすべきでは？｣
｢他の隊と同程度にはしてます｣
｢いやいや、超前線部隊だよ？もっと訓練すべき…！これはエルヴィンとリヴァイに相談だ！書類より優先順位が高い！｣
Aさんは突如として立ち上がって扉へ向かう。
ガチャン
扉がギシリと開く。
まぁ団長たちの所へ行って少し怒られるのも効果的か…
諦めて見送ることにして、席に座り直した。
｢げっ｣
｢何の優先順位が高いって？｣
｢聞き耳か…良い趣味してるね…｣
そこには何故か兵長の姿があった。
｢探す手間が省けたな｣
｢いや、もういい…｣
｢良くねぇ、聞かせろ｣
兵長に首根っこを掴まれて座らされているAさんの姿は哀愁が凄くて、兵長は何だか楽しげに見えた。
｢ご愁傷さまです…｣
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
