生き急ぎの集団 ページ15
肺が痛い。
喉からすきま風のような音がする。
痺れた手から刃が落ちた。
視界がはっきりしない。
｢あぁあ！！あ………｣
悲鳴がプツリと聞こえなくなって、絶望と後悔が押し寄せる。
同時に、次は自分だと思った。
痛みからか恐怖からか、脂汗が止まらない。
｢…はっ、はっ……は………｣
呼吸の回数が増える。落ち着こうとするほど増える。
徐々に視界がはっきりする。
首の痛みを我慢して顔を上げると、目の前に巨人の顔が迫っていた。
捕食直前で静止している。
空虚で大きな黒目と目が合う。
｢っ、ひっ……かはっ、ごほっ、ごほっ…！｣
息を呑んだ瞬間、肺の痛みに咳き込むと、巨人が突如として動き出した。
配属も決まっていないのに、ここが最後なのか。
やはり人生なんてこんなものだ。
上手く立ち回っていたって結局は運なのだ。
せめて即死が良い。
そう思い、頭を前にもたげた。
ガシュッ
自分を囲むようにして落ちていた巨人の影が突然崩れた。
代わりに石畳に血が落ちる。
顔を上げると、首の飛んだ巨人の肩に1人の兵士が立っていた。
｢良かったぁ、生きてて。しんどそうだね｣
戦場で聞くにしては間伸びしすぎた声の主は、近づいて来て私の脚を撫でる。
｢叩きつけられたのか。私がもっと早く来れてたら…｣
｢いえ……ありがとうござっ……いっ、た…｣
｢喋らないでいい｣
近くで見ると、その人の胸には調査兵団のマークが着いていた。
調査兵団はもっと前線で戦っているはずだ。
｢なんでここに…｣
｢君の仲間が撃った信煙弾だ。支援班が壊滅したら全滅は避けにくい。冷静で、全体のために迷わず人に助けを求められる子が居るらしい｣
そう言われて、私はランスを思い浮かべた。
｢さっきそこで訓練兵のジャケットの一部を見つけた。ごめんね、君の同期を助けられなくて。君はその子を助けようとしたんだね｣
その人はそう言って私の頭を撫でる。
体に浮遊感を覚え、次の瞬間には私は赤い土瓦の上に腰を下ろしていた。
｢立派だよ。でも無謀だ｣
その人は微笑んで言う。
あまりに正論で悔しかった。
この人はこんなに軽々とこなしたのに、私は何も出来ない。
むしろ足手まといだ。
｢悔しそうだね｣
言い当てられた驚きに顔を上げると、彼女は先程より笑みを深くする。
｢君、見込みあるよ｣
｢何のですか…｣
｢生き急ぎの集団に入る見込み｣
その人はAと名乗った。
逆光の中で見上げた彼女の顔は、壁の外を知らない子供のように無邪気だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 18人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
