分隊長の手の内は (ページ14)

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シガンシナにてページ14

｢書類が多いなぁ…エルヴィンめ…｣

Aさんはそう言うと、机の上に突っ伏して万年筆をクルクルと頭上で回した。
疲れている時はよくこの癖が出る。
この数年で見慣れた光景だ。
私が副隊長になって約3年。
分隊長に彼女が就任したのが5年前。
今の分隊長になってからの第5分隊は｢特攻隊｣とも呼ばれており、少し無茶な作戦を行うことや索敵陣形の先頭になることが多いため、他の隊がほとんどランダムに組まれるのに対してこの隊は団長と分隊長が兵士の技量を加味して構成している。
この隊に配属されるというのは兵士としての能力が認められたということになるが、前線に出る隊だからこそ、他の隊へ転属を希望する者もある程度居る。
私も正直、もっと陣形の安全なところに居たいし、元々は憲兵団に入ろうとしていた。
そんな私がなぜここに留まっているかというと、理由は上司にある。

私、ナル・オルトリアが訓練兵の頃、補給隊としてシガンシナ区での作戦に参加した時。
私たちの隊は後方で、馬車と退路を守っていた。
先輩が巨人を仕留めていくのを眺めながら、念の為刃を抜き、建物の上で待機する。
それだけの仕事のはずだった。

｢うわぁあ！｣

その叫び声と共に、私たちより少し前線で戦っている兵から悲鳴が上がる。
緩んでいた後方の兵たちの意識が戦場へ引き戻された。
悲鳴の方へ目を向ければ、7m級の巨人が1体。

｢あんなところに居たか！？｣
｢何で気が付かなかった！｣

兵士たちが次々と叫ぶ。
その巨人は腕を建物に掛けて、屋根の上にいる兵士を握っていた。
巨人の肘関節は特殊な曲がり方をしている。

｢奇行種…｣

訓練兵の私たちが動けないで居ると、その巨人は屋根の上に居た先輩兵士3人を軽く握り潰して口に突っ込み、ギロリと振り向く。
周囲の訓練兵から声にならない悲鳴が上がる。

｢そ、総員、立体機動準備！｣

そう叫ぶが早いか、巨人はこちらに向かってくる。
バタバタとした四足歩行。
想像の何倍も動きが速い。

｢あぁっ！｣

同期が捕まった。
抜いた刃がカタカタと音を立てる。
怖いなんて言っている場合では無いのはわかってる。
動かなくては命は無い。
私は考えも無しに、屋根の上を巨人に向かって走った。
巨人の視線がこちらに向いて、握り潰す手の動きが止まる。
時間を稼ぐ。助けられる。
屋根から飛び上がり、刃を振り下ろした。

ヒュンッ

｢ゔっ…！｣

鞭のようにしなる巨人の腕に弾かれ、私は壁に打ち付けられた。