懲りずに ページ13
｢…今後それで行くつもりなんですか？｣
あのヘアピン事件(第5分隊の部下はそう呼ぶことにした)から1日。
今日、Aさんは当たり前のようにそれを着けて第5分隊長室に出勤してきた。
｢もちろん｣
｢何でだよ！｣
｢せっかくだし｣
｢何がせっかくなのか理解できません外してください！｣
｢なになに！痛いよナル！｣
あまりにもマヌケだ。
私もこんな掴み合いしたくない。
この人は国民にだって名の知れたような、壁の中の英雄の1人なのだ。
上司の威厳を損ねさせたくない一心で、私は彼女の額からヘアピンをもぎ取ろうと必死だった。
｢ナル！禿げる！あなたの直属の上司が禿げるよ！｣
｢ハゲたくないなら外してください！｣
｢後ろ髪引っ張るのやめて！あー！！｣
｢くっそ！届かない！！無駄に背高いな！！｣
A分隊長の身長は大体165cm前後で、150cmと小柄な私では背伸びした彼女の前髪には手が届かない。
せめて朝礼までには外させないと…
こんな話題の的を兵団内に解き放つわけにはいかない…！
｢…オイ、何だこれは｣
私の背後、第5分隊長室の入口から、聞き覚えのありすぎる声が聞こえてきた。
正面から掴み合っていたAさんがにこやかになる。
私は対照的に冷や汗が出る。
恐る恐る振り返る。
｢おはよう、リヴァイ｣
やはり兵長だった。嫌なところを見られた。
上司に掴みかかっているなんて、関係の近い部下の行動とは言え失礼すぎる。
Aさんが部下に甘くて緩んでいたが、Aさんと仲のいい(仲のいい？)兵長からしたらいい気はしないだろう。
お咎めを覚悟し、Aさんの襟首から手を離して兵長に頭を下げる。
｢何してんだお前ら｣
｢いやぁ、これ外せって怒られて｣
｢お前まだ着けてんのか、アホが｣
｢酷すぎ｣
｢そんなに着けてぇならここに着けろ｣
｢ぐぇっ｣
下げていた頭を上げると、兵長がAさんの襟を掴んで前髪から手早くピンを外し、彼女の制服の胸ポケットに挟んだ。
失われていた威厳が少し帰ってきた。
｢せっかくヘアピンにしたのに。これならブローチのままでよかったなぁ｣
｢こっちの方がマヌケ面が強調されない｣
｢一言多い…｣
｢朝礼だ。行くぞ｣
兵長が分隊長の背中を押して部屋を出る。
安心して息をつくと、兵長がふと振り返った。
｢ナルって言ったか｣
｢はい｣
｢アイツ迷惑だろ。すまんが懲りずに面倒見てやってくれ｣
｢は、はい！｣
着いて行く人を、分隊長から乗り換えようかとまで思った。
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作者名：ぽんぽた | 作成日時：2024年2月1日 14時
