分隊長の手の内は (ページ12)

今日:16 hit、昨日:34 hit、合計:2,449 hit

部下たちの悲哀ページ12

｢…Aさん。それ、なんです？｣

調査兵団本部の一室、第5分隊長室として与えられた作業場で仕事をしている上司の前髪に、見覚えのない花のヘアピンが着いていた。
違和感に耐えきれなくなって問いかけると、上司は口角を上げ、嬉々としてこちらを振り向く。

｢よく聞いてくれたねナル……これは私とリヴァイの友情の証……｣
｢マヌケなんで外してください｣
｢酷い…｣

アリスの言葉に、心の底から共感した。
真面目に仕事をしているのに、その少し幼稚な花のヘアピンが着いていることで非常にマヌケに見える。
当人のAさんはアリスに直接的に言われて肩を下げている。
アリスの素直で鋭利な言葉は、毎度毎度Aさんにストレートに刺さり、はしゃいだ上司のストッパー代わりになっている。

｢それって、本部の近くの雑貨屋で売ってたやつじゃないですか？｣

ランスが新たに話題を振ってしまった。
正直嫌な予感しかしないため、これ以上深堀りはしたくない。

｢え？なんで知ってるの？｣
｢この前Aさんが店前で見てたから。ペアのブローチでしたよね｣

……ペアと聞こえた。
さっきは意味がわからなかったが、当の上司は｢友情の証｣などと言っていた。
話が繋がってしまった。
誰も触れるな…気が付くな…

｢ちょっと待ってください。じゃあその……片割れを…？｣

リラが好奇心に負けた。
いや、本当に嫌な予感がする。

｢リヴァイが着けてるよ｣
｢｢｢ゴファッ｣｣｣

耐えきれずに笑った私たちの声にならない声が、爆発音のように室内に響いた。
言わんこっちゃないと思ったがもう遅い。
あの人類の英雄と謳われる兵士長の額にあの花が着いていると思うと、もうどうしようもなく可笑しい。

｢ちょっとエルヴィンの所に行ってくるね｣
｢あ、Aさん。書類置きに行くなら僕行きましょうか？｣
｢いや、それだけじゃないんだ。ちょっと話したい事もあるから。トルソンは続けて皆と資料まとめておいて。終わったら誰かハンジのところ持ってってくれる？｣

そう真面目に話しているあいだも、私はどうしても彼女の額にしか目がいかなかった。
Aさんは軽い足取りで部屋を出ていく。
その背中を見送って、私たちは顔を見合せた。

｢………あのさ｣

私が口を開くと、全員が普段と違って過剰に反応する。

｢……今日は、兵長には会わないようにしよう｣

全員が深く頷く。
普段より一層、仲間と心が通ったような気がした。