. ページ38
.
産まれてからずっと、綺麗なものだけを見て生きてきた。
周りの人には大切にされて、愛されて、これ以上ないくらい幸せだった。
幼い頃、好奇心から初めて宮殿を抜け出して街に出たことがある。
その頃にはもう戦況も酷く、経済も不安定でみんな貧しかった。
何も知らなかった私は、どうして国民たちの服や家はボロボロなんだろうと思った。
ただあの時の街の人の私を見る目が忘れられない。
恨めしそうで、憎んでいるようで、今まで私が受けてきたものとは全く違った。
みんな私に手出しや口出しはしなかったけれど、何か目で訴えるような雰囲気に恐怖を覚えた。
それから私も成長して、歴史や政治の事を学んでいくうちに罪悪感が芽生えた。
それはどんどん育っていって、私の心にずっと居座っている。
…彼。
…ギョンスは、今何をしているんだろう。
私がまた無駄に過ごしている一日を、ギョンスは必死に生きようとしているのだろうか。
絢爛豪華な宮殿の一室で、甘い紅茶を飲みながら考える事じゃないだろうけれど。
でも、何もしないのは嫌だ。
父に言うだけ言ってみよう。
…バカな娘だと思われるだろうか。
敵兵の味方をするなんて王族としてあってはならないし、もしかしたらもっと酷い事を言われるかも。
ちょうど会議を終えて帰ってきた父を出迎えようと、私は紅茶を置いて父の元へ向かった。
.
疲れた様子の父親は、ジャケットを脱ぐとすぐに書斎に入り椅子に座った。
「お父様、おかえりなさい。少しお話があるの。」
「あぁ、ただいま。なんだ?」
すぐに机に置かれていた資料に目を通し始めた父は、私の話なんて聞く気がないようで端的に終わらせるように促す。
「…今回の戦争で捕らえた捕虜を解放して欲しい。」
ぴく、と父親の眉毛が動いて、ゆっくりとこちらを見る。
スローモーションのように行われたそれは、私に緊張感を与えるのには十分だった。
「…ははっ、勉強のし過ぎで疲れているんじゃないか?もう寝なさい。きっといい夢を見れるよ。」
父は突然あっけらかんと笑って、私に部屋に戻るように言った。
予想外の反応に少しびっくりしたけれど、これで私が相手にすらされないことが証明されてしまった。
…そうだよね、子供の言うことなんて誰も聞く耳を持たないわ。
私は憂鬱な気持ちのままベッドに身体を沈めた。
.
273人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぼぷぴ(プロフ) - 貴方様が書くお話、本当に面白いです…!!今回のギョンスのお話も最高でした…いろんな意味でドキドキが止まりませんでした!!これからも応援しています! (2020年3月24日 16時) (レス) id: eb25947e96 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう。(プロフ) - 1話1話がすごく読み応えがあって面白いです。シウミンさんの物語とスホさんの物語が個人的にすごく好きです。これからも作者さんのペースで更新して頂けるとうれしいです。 (2020年3月17日 3時) (レス) id: 622a208a12 (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 今日初めてこの小説を見つけたのですが、とてもハマって一気に読んじゃいました。どれも狂気的で特にセフンくんのは結末に鳥肌がたちました。すごく面白かったです。これからも頑張ってください! (2020年2月27日 1時) (レス) id: d5ef40128c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:nel_ | 作成日時:2020年2月2日 1時