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10枚目 仰せのままに ページ12

「焼肉行こうぜ」

「「は?」」


 事の始まりは8月下旬。仕事の都合で日本に帰ってきている『魔王』の一言だった。

 夕暮れ、ボクらは自由奔放に時間を費やしていた。こんなある意味廃れた学院の意味のない修繕工事で部室やらを追い出され、ボクらは集まっていた。


「誰が行くか」

「拒否権はないぞ、行くったら行くもん」

悪寒がしました、と師匠はわざとらしく身震いする姿を何となく眺めながらボクは口を開く。

「お金、大丈夫?」

「その辺は問題ねぇ。安心しろ、俺の奢りだ。ただ一番の問題は……」

零兄さんがスッ、と横目に奏汰兄さんを見た。

 ただでさえまだ馴染めていないというか、そもそも認知されているかすら危ういところだ。『かみさま』だと言い張り、変に敵対意識を持たれてしまっている人も少なからずいる。

 無論、兄さんたちも。


「……えっト、奏汰兄さん……焼肉、食べに行かなイ?」

「……なっちゃん。えっと、それはぼくへの『ねがい』ですか?」

「お願いではあるけど奏汰兄さんのいうお願いではないんだよネ……」

「?」


 ややこしい、の一言に限る。会話が噛み合っているようで噛み合っていないのはボクにとっては少し不便があった。いや、これは誰でもそうか。


「師匠、パス」

「分かりました」


 ここでボクが話しかけ続けても埒が明かないということは一目瞭然。

 結局は兄さんたち総動員の三人がかりでやっと奏汰兄さんを動かすことに成功した。




「俺、牛食べたい」

「零……また高いものを……」

「お前は俺の母ちゃんか。渉は自分の弟子にもっと食わせてやれ」

「なんでこっちに飛び火するのかナ!?」


 意外にも零兄さんが選んだところは繁華街の一角でそこそこ賑わう普通の焼肉屋だった。

 よく宗兄さんが来れたな、と思い見てみると案の定瞑想じみたように目を閉じ、完全に飲食する気はないらしい。


「そういえば夏目くん、さっき何か撮ってましたね」

「別ニ、面白いものじゃないヨ」


 そうですか〜?と言いながら師匠は器用に肉や野菜を取り分けていく。

 ボクの皿にも追加され、そっと宗兄さんの空の皿にも追加。しぃ、といたずらっぽく人差し指を立てて笑った師匠に、ボクはこれから起こることが予想できた。

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作者名:竜花 | 作成日時:2019年8月15日 2時

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