#17. 見離されないこと ページ18
「怪我が完治したその日、リンクに戻った日のことを覚えています。…1度も跳べませんでしたけどね」
何度も何度も跳び続けて、得意ジャンプすら跳べなくなって
その時、あぁ。もう終わりなんだと。
悔しくて、悔しくて、誰かのせいにしたくて。
声にならない叫びを吐き出した
「ママンとトゥギャザーのオーディション出演オファーを貰ったのは、リハビリ時期でした。幾つかオファーを貰っていて、引退を考えた時に少しでも役に立てると思えたのがここでしたので。」
詩乃)…、
「すみません。こんな暗い話をして」
詩乃)そんなことないよっ。唯、私も無理に言わせちゃってごめんね。
話を切り替えよう
こんな話をして、いい気分になる人なんてマスコミくらいしかいない
「過去は過去のことでしょう。だから気にしていませんし、詩乃さんが深く悩むことなんてありませんよ」
誰かに分かって欲しくて、ここに来た訳じゃないんだから
詩乃)ダンッ、そんなことない。
突然立ち上がった衝撃に驚いた
置かれた冷水がひっくり返り、詩乃さんの姿を水が写す
詩乃)Aちゃん、出木田さんに跳べって言われた時、出来ると思って跳んだでしょ?出来ないって言えば、皆に見離されると思って。それでも頑張ってッ…っ
「…ッ、詩乃さん。何で、泣いているんですか…」
ポタポタと溢れている涙が落ちて、声を出しながら詩乃さんは泣き出した
周りの視線が痛い。けど、私の為に泣いてくれている事に衝撃を受けるばかりだった
泣き続ける詩乃さんの隣に席を移動させ、背中を擦りながら話しかけた
「やり直せない過去じゃないから、跳べなくても、見離されても、出木田さんの期待に応えたんです。選手に戻るのは簡単だけど、ここにいる方が楽しいから。…詩乃さん、幻滅しましたか?」
ゆっくり横に頭を振られ、ホッと安心する
だから、私は…
「ッ、…」
詩乃)…っ、Aちゃん…っ
ギュッと抱きしめられる
私、今泣いてるんだ。分かってくれることが、見離されないことが、こんなに安心できて…っ
「うっ…ぅ…」
詩乃さん達には見離されない
こんなに誰かを信じたのは、初めてだろう
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作者名:ひな林 | 作成日時:2021年6月5日 8時