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『んー、美味しい……。』
田中「あの勝ち方はずるいと思うんですけど。」
『樹くんだって同じ方法で勝とうとしてたでしょ。』
田中「……ねー、一口だけちょうだい?」
『独り占めっていうルールだったもん、駄目だよ。』
普段じゃ絶対に買わないような大きなアイスクリームを大きなスプーンですくって口の中に入れると、冷たさと甘みが舌の上を滑っていく。
隣で樹くんが物欲しそうな目で見てくるけれど、先にズルしようとしてきたのは樹くんなので可哀想とかそういう気持ちも湧いてこない。
なんならアイスを食べれている優越感に浸ってしまっている自分がいて、性格の悪さが露呈しているような気がするけどまぁ今は気にしないでおこう。
田中「……おいしい?」
『びっくりするくらい美味しい。』
田中「いいなぁ、いいなぁ……、俺も食べたいんだけどなぁ。」
『……美味しい。』
田中「ねぇ、スルーすんの辞めれますー?」
「一口ちょうだいよー。」と樹くんは私の頬をつついてくる。
正直に言うとかなり可愛いし、食べさせたい思いに駆られてしまうけれど、とりあえず樹くんから目を逸らしてアイスクリームを口に入れる。
すると樹くんはソファーに座っている私の上に向かい合わせになるように座ってくるけれど、普通に背が高いので目線が凄く上になってしまう。
『……おっきいよ、』
田中「重い?」
『いや、重くはない。』
田中「……ね、ちょーだい?」
『……それって男の子より背の低い女の子がやるから可愛いんだよ?』
田中「いや、Aちゃんが俺の上乗ってるって考えるだけで死ねる。」
『なんで?』
田中「え、だってさ、なんかえろくね?」
『もう絶対アイスあげない。』
田中「ねぇ、ねぇ、ごめんね?もう言わないから。ごめん……。」
私の前でそういう発言をしようとした樹くんは怒られた後の子犬のような顔をしていて、かなり……いや、すごく可愛くて思わず顔が緩んでしまう。
随分と私も甘いな。
『……樹くん、可哀想だから一口あげる。』
田中「え、いいの?」
『うん、口開けて?』
田中「んーん、自分で貰うから大丈夫。」
『え?どうい、』
その瞬間、樹くんは私の唇にちゅ、と音を立ててキスを落とした。
いきなりの行動に思わず固まってしまうと、私から唇を離した樹くんは悪戯っぽくニヤッと笑い、私の頭を撫でてこう言った。
田中「ごちそーさま。」
……勝負には勝ったのに、なんだか負けた気がした。
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