【ツイステ】でかけよ、オンボロ寮(仮)

210.君から溢れたものを ページ10

(…けどおかげで助かった)



ジェイド「…Aさん、貴方髪が」


『え？』


フロイドさんの少し後ろで立っていた彼の顔に珍しく笑みがないことに気づいた


(...私の髪、が？)



こんな時になんだと言うのだろう




『…あ、』




地べたについた自分の手の周りに、自分のものであろう毛色の短髪が散らばっている
俯くと胸下にかかるくらいまでだったものが鎖骨を撫でるほどの長さに変わっている
根元から指を通すように撫でるとあっという間にするんとすり抜けてしまった



(…あ、今ので…)



一瞬だったが、今釣り上げられている男の手には緑色の光が見えた気がした

多分風か何かの類の魔法だ
割り込んだおかげで逸れて髪に当たったんだと思う

髪を横に流すと少しではあるが所々元の長さが残っていて避けきれなかったところが切れたんだろう


『…あぶなぁ』


この至近距離でそんな魔法、刃物を突きつけられているのと何ら変わりない
髪の毛だけで済んだことにホッとした



『…あ、ユウくん。どこもぶつけたりしてないよね…？もうびっくりし…た』







ユウ「…ｯ







何してるんですかッッ!!!!!!」






『………え』





鼓膜に響くほどの怒声に、頭の中が一瞬真っ白になった

いつも温和な表情を見せる彼の顔に、その面影はどこにもなく
眉をひそめて憤りの色をそのままに映したような彼の顔は紛れもなく怒りを表していた

今まで一度も見たことのない彼の怒りに満ちた表情と声に体が強張って、
何か言葉をかけなきゃと頭ではわかっているのに声が出てこない




フロイド「…小エビちゃん？」

ジェイド「…」






ユウ「髪切られて…ｯ

俺の心配なんてしてる場合じゃないでしょう!!!!??



今だって……ｯ!!」





『…ゆう、く』







ユウ「…なんで、




俺なんか庇ったりするんですか……ｯ！！」





私の両肩を強く掴んだ彼の手は少し震えていて、
前髪から覗かせる目は今にも泣き出してしまいそうで

俯いた彼から溢れ落ちるように出たその声に、
私は何を返せばいいのだろう


目の前にいるのに、手を伸ばせばすぐ届く距離にいるのに

いつも撫でていた柔らかい髪に触れようとすれば自分の指先が震える








『………ごめ、ん。…ごめんね、





……ごめん、なさい』






最後に私に向けられた彼の表情と目の色が、
酷く鮮明に頭の中に焼き付いて離れてくれないのだ

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