裏切りの刀

悪夢ってこわいよね ページ14

人間になって初めて『夢』をみた。
夢とはその日起こった出来事や思い出が
一般的に多いらしい。

皆は日々変わった夢を見たりするらしいが
私はいつも決まって同じ夢。

正直、もうウンザリだ。

『光秀の首を討ち取ったぞー！』

ああ。またこの夢か。

さらし首にされる光秀を私はみつめている。
視点は通常よりもずっと低い。

『父様…。』

そうだ。この時私はガラシャの腕の中にいた。
ガラシャは震える腕で力強く私を抱きしめる。

「大丈夫だよ。私が守ってみせるから。」

そう言ってみせてもガラシャには聞こえない。
分かっているのに毎回言ってしまう。

『逆賊の娘だ!』

誰もが指を指してガラシャを罵る。
もう慣れっこになったガラシャはあの日から
笑わなくなった。

「大丈夫だよ。私がずっと一緒だから。」

時は流れガラシャは自害し私は明智家以外の
人の手に初めて渡ることになった。

『なんだこれ。明智の銘付きだぞ。
逆賊の名がついてちゃいかん！すぐに削れ。』

私に刻まれていた明智の銘が消えていく。

「待って!消さないで!!私と明智を繋ぐ絆を
消さないでぇぇぇぇぇ！！！！！」

悲痛な叫びが響く。『その日』の私が
必死に刀匠に縋りついて泣き拒む。

「…こんな時に人間になれてたらなぁ。」

何十回言ったであろうお決まりのセリフ。
現在となってはただの刀だった自分が
もどかしくてたまらない。

「結局は光秀もガラシャも絆も…何一つ
守れやしなかった。大丈夫なんてよく
言えたもんだよ。」

自嘲気味に笑う。
そうだ。私は何一つ守れてなんかいない。

『近景。夫と娘を宜しくね。』

一番最初の記憶が蘇る。

「煕子。ごめん。約束守れなかった。」

こちらに微笑みかける女性に手を伸ばす。

「煕子。光秀。ガラシャ。」

私を置いていかないで。
ずっと一緒だと言ったじゃないか。

「私も連れてってよ。」

煕子に伸ばした手は煕子に触れることなく。

『近景、お前は誰かを守る剣になれよ。』

いつか言った光秀の言葉が追い打ちをかける。

「はっ！！」

目が覚める。寝間着は汗でぐっしょりしていた。
起き上がると備前は自分の背中を撫でた。

「古傷が疼く…。」

消された銘の古傷が。

体操座りをして顔を布団に埋めると
か細い声で呟いた。

「早く殺してよ…不動くん。」

懇願するような声は夜に溶けて消えた。

ほのぼのターイム(音声のみ)→←君は綺麗なお姫様

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す