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side Taiga
「樹ってさ、」
「なに?」
「…人の目とか気にしないタイプ?」
もうすぐ夏も本番に差し掛かった7月の頭。
夏休みモードに突入しそうな空気とは裏腹に、目の前の茶髪は、この世の終わりのような顔で俺の教室に駆け込んできた。
今年に入って、クラスでこんなに注目されたのは初めてだ。
みんなの視線がこちらを向いて、樹と、ついでに俺にも注がれる。
「そんなにショック?」
「うん どうしよ」
「一ヶ月くらいで死にそうな顔しないでよ」
「だって… きょもといたいもん」
「樹は、言う場所とタイミングから勉強した方がいい。」
この学校ではもうだいぶ知られた存在になりつつ樹。
理由は簡単。俺に付きまとっているから。
俺を、好きだと、惜しげも無く伝えるから。
「きょも、ちゃんと毎日連絡してよ。」
「めんどくさいよ」
「しないと拗ねるよ」
「なにそれ」
出来ることなら早く去ってもらいたいものだが、残念ながらそんな空気は全く感じられず、なんならクラスメイトから応援されている様子さえ伺える。
樹は、いつだって人の中心だ。
ついこの前、『樹くんかわいい』と聞こえてきた時には、流石に自分の耳を疑ったものだ。
『やっぱかっこいいよね あの子』。どこからか届くのは樹への褒め言葉。樹には聞こえていないのか、俺を嬉しそうに見たままでなんの反応も示さない。
……かっこよくねぇよ。
「…きょも、?」
「なに、」
樹の顔が 急に曇った。
「ごめん。教室来るのはやめとく」
「え?」
「ちょっと調子乗りすぎた。
迷惑に思われるのは困るしね。」
「…今更かよ。」
「だってきょも、今結構本気で怖い顔したから。」
怖い、顔…。
「……してた?」
「うん。もっのすごい怖いの。」
「…まじか、」
なんだかんだ、樹の事は嫌いじゃないし
樹はちゃんと気の使える奴だから、
消去法ではあるけれど、俺が 怖い顔、になる要素なんて、さっきどこからか届いてきたあの台詞以外に浮かばなかった。
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作者名:ひじり | 作成日時:2020年11月1日 22時